【令和3年度】 看護職員におけるトラウマティックな出来事に関する分析

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研究要旨

この研究から分かったこと

事件の種類としては、暴力等に遭遇したケースが多かった。また、多くのケースにおいて事件の背景にあると考えられる加害者側の疾患等が不明のままであった。加えて、突然被災していることが明らかとなった。今後、より質の高いケアを提供するために、そして看護職員がやりがいをもって安心・安全に働ける職場を作るために、各種疾患に対する看護者の理解を深めるような機会を設ける等のアプローチが必要である。

目的

「過労死等の防止のための対策に関する大綱」で過労死等の多発が指摘されている業種・職種のうち、医療・福祉に着目した。医療・福祉の事案は精神障害事案が大半を占めている。また、認定理由としては「悲惨な事故や災害の体験、目撃」が多かった。したがって、本研究ではトラウマティックな出来事を体験した看護職員に着目して、出来事が起こった背景を調査復命書から定性的に探索し、予防策を講じる手掛かりを得ることを目的とした。

方法

過労死等防止調査研究センターにおいて調査復命書の記載内容に基づいて作成された過労死等データベース(平成22年~平成29年度、自殺を含む精神障害事案3,517件)から、看護に関わる事案80件を抽出し、分析を行った。

結果

トラウマティックな出来事全80件のうち46件(57.5%)が、利用者からの暴力(性的なものも含む)であった。また、次いで多いケースは、利用者の自殺・死に遭遇で、11件(13.8%)であった。暴力等に遭遇したケースについては、突然被災したケース、あるいは背景にある疾患情報が不明のケースが多かった。被災後の状況については、周囲の者から促されて受診した被災者も多かった。

考察

労災認定された事案では身体的暴力に遭遇したケースがほとんどであったが、先行研究によれば、院内暴力は身体的暴力よりも精神的暴力が多いとされている。このことから、実際の現場では、労災申請に至っていない精神的暴力があるのではないかと推測される。また、暴力等に遭遇したケースでは、加害者となってしまった者の背景要因が不明のまま突然被災したケースが多くあった。これらのことから、組織的な対策として、暴力等のリスクの高い患者に関する知識や、ハラスメントを受けた際の対応の仕方等の習得機会を設ける必要性があると考えられる。

キーワード

看護職員、トラウマ、暴力

執筆者

川上澄香

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