過労リスクを評価する「過労徴候しらべ」調査票の紹介
過労死の前駆症状を活用して作成した調査票
これまで過労死に発展するような過労リスクを測定するツールがありませんでした。そのため、実際に過労死した方の労災申請を行う際に作成された調査復命書の中に記載のあった前駆症状を活用して、過労リスクを測定するための調査票「過労徴候しらべ」を開発しました。この調査票は1,564件の脳・心臓疾患に係る過労死等事案の調査復命書の中に記載されていた190件の前駆症状の情報を活用したものです。前駆症状をKJ法と呼ばれる同じカテゴリーにあるものを分類していく手法によって同様の訴え等をグルーピングしていきました。また、それとともに、過労死による遺族へのヒアリングを通じて、過労死発症前までの過労徴候を検討した先行研究(上畑(1982)1)、斉藤(1993)2))を参考にして26症状を最終的に本研究では「過労徴候」としました。各項目の尋ね方は、過去6か月の過労徴候26項目を「全くなかった(1点)」から「頻繁にあった(4点)」の4段階評価として、各回答者の合計得点を算出する評価方法を用いています。
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過労徴候しらべを使った調査
図2は過労死最多職種として知られる運輸業のトラックドライバー1,992名に過労徴候しらべを配布して、彼らの働き方やこれまでの既往歴との関連性を検討した結果です。そこから、年齢や喫煙、飲酒といった様々な要因を考慮しても、過労徴候しらべの得点が高くなるにつれて、過労死に関連した疾患である脳・心臓疾患、高血圧、高脂血症、糖尿病の既往歴の割合が高くなる傾向が確認されました。
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くわえて、同じトラックドライバーの集団について、どのような働き方が過労徴候しらべの得点を最も増加させるのか?ということについて検討してみたのが図3の結果です。過労に関連しそうな残業時間や労働時間、夜勤回数等よりも、睡眠時間の短さが過労徴候しらべの得点を増加させることが分かりました。当たり前のことかもしれませんが、睡眠を確保することが最も過労リスクを低減させるには有効であることが示唆されました。
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「過労徴候しらべ」の使用は無料ですので、過労リスクを評価するためのツールとして、過重労働面談や職場の環境改善等にお役立てください。なお、過労徴候しらべの研究は下記の論文が元になっています。
■論文:Kubo T, Matsumoto S, Sasaki T, Ikeda H, Izawa S, Takahashi M, Koda S, Sasaki T, Sakai K. Shorter sleep duration is associated with potential risks for overwork-related death among Japanese truck drivers: use of the Karoshi prodromes from worker's compensation cases. Int Arch Occup Environ Health. 2021 Jul;94(5):991-1001. doi: 10.1007/s00420-021-01655-5.
■論文URL:https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs00420-021-01655-5
参考文献
1) 上畑鉄之丞.脳・心血管発作の職業的誘因に関する知見.労働科学.1982;58(6):277-293.
2) 斉藤良夫.循環器疾患を発症した労働者の発症前の疲労状態.労働科学.1993;69(9): 387-400.