勤務間インターバルが短い勤務

勤務間インターバルが短い勤務
目次

勤務間インターバルとは

勤務間インターバルとは勤務の終了時刻から翌始業時刻までの休息期間のことをいいます。この休息期間には、睡眠時間、余暇時間、通勤時間、食事や入浴といった生活時間が含まれています。このうち、睡眠時間や余暇時間は疲労回復のための重要な時間です。そのため、我が国では労働者が睡眠時間や余暇時間を確保できるよう、一定の勤務間隔を設ける勤務間インターバル制度の導入が事業主の努力義務とされています(図1)。また、欧州連合(European Union: EU)では、EU労働時間指令により、労働者は24時間毎に最低でも連続11時間の休息期間(daily rest period)を設けることとされています1)

図1.勤務間インターバルと勤務間インターバル制度図1.勤務間インターバルと勤務間インターバル制度

短い勤務間インターバルの悪影響

勤務間インターバルが短いと様々な悪影響が生じ、特に11時間未満の勤務間インターバルはクイックリターンと呼ばれ、その悪影響が多数報告されています。

例えば、勤務間インターバル内に含まれる睡眠です。勤務間インターバルの長短は、睡眠時間の長短につながります。日勤労働者3,867名を対象に勤務間インターバルと睡眠時間の関連を調べた研究によると、勤務間インターバルが短いほど平均睡眠時間は短くなり、クイックリターンでは、平均睡眠時間が6時間未満となっていました2)(図2)。厚生労働省が出している「健康づくりのための睡眠指針2014」において、「個人差はあるものの、必要な睡眠時間は 6 時間以上 8 時間未満のあたりにあると考えるのが妥当」とされています3)。このことから、11時間未満の勤務間インターバルは睡眠不足につながると考えられます。

図2.勤務間インターバルと睡眠の量、質の関連(Ikeda et al., 2017. J Occup Health).図2.勤務間インターバルと睡眠の量、質の関連(Ikeda et al., 2017. J Occup Health)
※1.正確には総就床時間。※2.ピッツバーグ睡眠質問票による総得点。

また、勤務間インターバルが短いほど、睡眠の質も悪く、睡眠負債(睡眠不足が積み重なっている状態のことを言い、心筋梗塞といった疾病リスクなどと関連することが報告されています)や社会的時差ぼけ(社会的制約を受ける勤務日と受けない休日における睡眠のタイミングのずれのことを言い、労働能力の低下などと関連することが報告されています)の問題が大きいことも報告されています e.g., 2, 4)。その他、勤務間インターバルと疲労感や血圧が関連し、勤務間インターバルが短いほど疲労感が強く、最低血圧値が高いことが報告されています5)。これらはいずれも日勤労働者を対象とした研究で得られた知見ですが、夜勤・交替制勤務者でも、クイックリターンが睡眠や眠気、疲労、病気欠勤等と関連することが多数報告されています e.g.,6, 7)

これらのことから、勤務間インターバル制度による一定の勤務間インターバルの確保は、労働者の健康確保につながると考えられます。

勤務間インターバルは、量だけでなく質も重要

勤務間インターバルの質(どのように過ごすかなど)も労働者の健康確保において重要です。例えば、勤務間インターバルを十分に確保していたとしても、その間の睡眠時間が短いと、メンタルヘルスや睡眠の質、生産性(プレゼンティーズム)の問題との関連が強いことが報告されています 8)(図3)。また、勤務間インターバルにおいて、メールや電話による仕事の連絡が多いと、疲労感が強くなることも報告されています9)。つまり、事業所で勤務間インターバル制度が導入されても、労働者がその間に睡眠を十分にとらなかったり、仕事の連絡が多く十分に休めなければ、健康問題が生じる可能性があります。

これらのことから、勤務間インターバルの量だけでなく、同時にその質も十分に確保することが労働者の健康にとって重要であると言えるでしょう。

図3.勤務間インターバルと睡眠時間の組み合わせとメンタルヘルス問題の関連(Ikeda et al., 2022. Int J Environ Res Public Health)図3.勤務間インターバルと睡眠時間の組み合わせとメンタルヘルス問題の関連
(Ikeda et al., 2022. Int J Environ Res Public Health
勤務間インターバル15 時間(9 時間勤務、うち1 時間休憩、残業なしに相当)、睡眠時間6 時間以上の組み合わせを基準としたときのオッズ比(黒丸)。縦線は95% 信頼区間を示す。短い勤務間インターバル(11時間未満)と短い睡眠時間(6時間未満)の組み合わせで最もメンタルヘルス問題との関連が強いが、勤務間インターバルを15時間とっていても睡眠が短ければ、メンタルヘルス問題との関連は強くなる。

引用文献

1)    European Parliament CotEU. Directive. 2003/88/EC of the European Parliament and of the Council of 4 November 2003 concerning certain aspects of the organisation of working time. Official Journal of the European Union 2003; 299: 9–19.

2)    Ikeda H, Kubo T, Sasaki T, Liu X, Matsuo T, So R, Matsumoto S, Yamauchi T, Takahashi M. Cross-sectional Internet-based survey of Japanese permanent daytime workers' sleep and daily rest periods. J Occup Health 2018; 60: 229–35.

3)    厚生労働省健康局. 健康づくりのための睡眠指針2014. https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf

4)    Ikeda H, Kubo T, Sasaki T, Liu X, Matsuo T, So R, Matsumoto S, Takahashi M. Daytime workers with longer daily rest periods have smaller sleep debt and social jetlag: a cross-sectional web survey. Behav Sleep Med 2021; 19: 99–109.

5)    Ikeda H, Kubo T, Izawa S, Takahashi M, Tsuchiya M, Hayashi N, Kitagawa Y. Impact of daily rest period on resting blood pressure and fatigue: a one-month observational study of daytime employees. J Occup Environ Med 2017; 59: 397–401.

6)    Vedaa Ø, Harris A, Bjorvatn B, Waage S, Sivertsen B, Tucker P, Pallesen S. Systematic review of the relationship between quick returns in rotating shift work and health-related outcomes. Ergonomics 2016; 59: 1–14.

7)    Vedaa Ø, Pallesen S, Waage S, Bjorvatn B, Sivertsen B, Erevik E, Svensen E, Harris A. Short rest between shift intervals increases the risk of sick leave: a prospective registry study. Occup Environ Med 2017; 74: 496–501.

8)    Ikeda H, Kubo T, Izawa S, Nakamura-Taira N, Yoshikawa T, Akamatsu R. The Joint Association of Daily Rest Periods and Sleep Duration with Worker Health and Productivity: A Cross-Sectional Web Survey of Japanese Daytime Workers. Int J Environ Res Public Health 2022; 19: 11143.

9)    Kubo T, Izawa S, Ikeda H, Tsuchiya M, Miki K, Takahashi M. Work e-mail after hours and off-job duration and their association with psychological detachment, actigraphic sleep, and saliva cortisol: A 1-month observational study for information technology employees. J Occup Health 2021; 63: e12300.

池田 大樹(いけだ ひろき)
記事を書いた人

池田 大樹(いけだ ひろき)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の主任研究員で、現場介入チームと心血管系チームに所属。専門分野は睡眠学。質問紙による横断・縦断調査、睡眠計や疲労アプリを用いた観察調査、実験室実験などにより、過労死及びその防止に関する研究を、睡眠をメインとして実施している。