長時間労働
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長時間労働が何故、健康や安全に良くないのか、どのような影響が考えられるのか?

健康な労働時間

健康を守るには、我が国では時間外労働時間(1週間当たり40時間を超えて労働した時間)が月当たり45時間以内となるように推奨されています。それより長い時間外労働時間、とりわけ単月で100時間超、あるいは2~6か月を平均して月に80時間超では、健康障害が起こりやすくなります。これらの水準は、いわゆる「過労死ライン」と呼ばれています。

この「過労死ライン」は実は睡眠時間に照らして決められています。1日24時間から法定労働時間8時間と、労働以外に費やすために必要な生活時問のべ6時間とを差し引くと、10時間が残ります。この10時間の使い方として、残業を5時間行うと、睡眠は長くても5時間しかとれません。この睡眠時間では心身の健康が保たれず、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病、高血圧症、うつ病などが起こりやすいことが多くの調査研究から示されています。1日当たり残業5時間超を月当たりに換算すると100時間超に相当します。同様に、残業4時間超は月の残業時間として80時間超に相当します。睡眠6時間未満でも、健康障害の起こる確率は高まります。

長時間労働に伴う弊害

仕事の進捗によっては残業せざるを得ない場合はあるにしても、労働時間が長過ぎると、眠る時間は奪われてしまいます(図)。このような生活が続くと、寝付きが悪くなり、起床した時に疲労を感じたりすることが増えて、質の良い睡眠がとれなくなります。そうなると、疲労は充分に回復されません。

長時間労働のほかに、労働時間以外の負荷として夜勤・交替制勤務仕事のストレスがあると、睡眠は大きく妨げられます。その上、仕事以外の負荷として私生活に難題を抱えている場合、働いている時も働いていない時も良い状態になりません。職場や個人の工夫によって、それぞれの問題が緩和されればよいのですが、そのまま続いてしまうと、疲労の回復不全が蓄積し、いずれは心身の健康が保たれなくなります。その典型的な例が過労死等と言えます。

長時間労働とその上流の見直し

過剰に長い労働時間は過重労働や過労死等につながります。ただし、時間労働をもたらす要因としては、経営の理念や倫理、労働の環境や条件のあり方がより問われます。平成26年(2014年)に過労死等防止対策推進法が施行される前からも、された後も、長時間労働を減らす努力は国、業界、職場、個人のいずれのレベルでも、ずっと進められてきています。この課題に対する模範解答は必ずしもないので、私たち全体の知恵を出し合い、協力しながら、より健康な働き方・休み方をぜひ探っていきましょう。


図 長時間労働と心身の健康悪化図 長時間労働と心身の健康悪化

高橋 正也(たかはし まさや)
記事を書いた人

高橋 正也(たかはし まさや)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)のセンター長で、専門分野は産業睡眠医学。過労死等研究では、各チームの研究を支援しつつ、研究代表として全体を統括。研究者としてのキャリアは、労働省産業医学総合研究所の研究員から始まり、その後、米国ハーバード大学医学部ブリガム・アンド・ウィメンズ病院・睡眠医学科の博士研究員を経て、現在の地位に至る。睡眠、生体リズム、勤務スケジュール、職場の心理社会的環境、過重労働が研究テーマ。また、仕事とプライベートのオンオフのバランスを重視しており、オフの時間は家族と過ごすことを楽しみにしている。