労働者の座位行動や心肺持久力の調査票 「労働者生活行動時間調査票:WLAQ」
WLAQとは
Worker’s Living Activity-time Questionnaireを略してWLAQ(ダブルラック)と呼んでいます。日本語では「労働者生活行動時間調査票」です。働く人の睡眠時間や勤務時間、通勤時間などの生活時間を調査するための質問票ですが、特に座位時間などの身体活動に注目している点が特徴です。WLAQには身体活動の時間や頻度、強度を問う質問も含まれているため、それらを用いて「心肺持久力」という体力数値も算出することができる仕組みになっています。
質問票の妥当性について
大人数を対象とした研究では質問票が多く使われます。しかし、質問票で得た成果を学術論文として公表しようとした場合、論文審査の過程で審査員が特に注目するのは、その質問票が適切に評価対象を測定できているのかという点です。そのため、質問票を開発した研究者には、他の研究者がその質問票を有効活用できるように、開発過程で行った検証実験のデータを論文にまとめ、公表することが求められます。私たちもWLAQで労働者の座位時間(産業衛生学雑誌, 59:219-228, 2017)や心肺持久力(BMC Public Health. 20:22, 2020)が適切に評価できていることを示すため、検証実験のデータをそれぞれ論文として公表しています。検証実験では基準測定法(この方法であれば正確に測定できると多くの人が認めている方法)が必要になりますが、座位時間の評価にはactivPAL(図1)というウェアラブル機器を、心肺持久力の評価にはランニングマシンによる最大酸素摂取量(VO2max)(図2)を妥当基準とした実験を行っています。
WLAQを用いた調査研究
私たちはWLAQを用いていくつかの調査研究を行いました。図3はWEB調査でWLAQに回答した東京圏勤務の労働者9,406人を対象に、運動習慣や体力(WLAQで評価した心肺持久力の推定値)と年収との関係を分析した結果です。年収が高いほど、運動習慣者の割合が増え、低体力となるリスクが減少している状況が示されています。公表した論文(Journal of Occupational Health, 63(1):e12187, 2021)では、日本でも健康格差が生じている可能性があるのではないかと指摘しています。
図4は、社内イントラネットを通じてWLAQに回答した某企業の従業員1,923人を対象に、心血管疾患リスクと心肺持久力・勤務中座位時間との関係を分析した結果です。この結果は、勤務中座位時間の多寡に関係なく、心肺持久力の低下が心血管疾患リスクを高めることを示しています。公表した論文(Industrial Health, 2023, in press)では、労働者の心血管疾患予防には心肺持久力の向上がより重要であることを指摘しています。
WLAQ調査システム
調査研究では個人情報への配慮とデータ収集の効率化が求められます。私たちはこれらを同時に行うための専用webシステム(WLAQ webシステム)を開発しました。図5はその web画面です。システムを利用することにより、参加者はPCやスマートフォンからWLAQに回答できるようになりました。また、従来は安衛研や協力企業の担当者が行っていた質問票の印刷、配付、回収、回答漏れや回答ミスのチェック等の手間が軽減され、データ欠損も少なくなりました。WLAQ webシステムは、参加者に個別分析結果(図6)をフィードバックする仕組みも備えています。WLAQへの回答に加えてウェアラブル機器での計測に参加された方には、健康との関わりが強いMVPA(中高強度身体活動)時間の結果も返却しています。MVPAについて詳しくはこちら(https://portal.jniosh-fitness.com)をご覧ください。