過労死等はどのように起きるの?
目次

過労死等には様々な要因が関係する

過労死等は、過労死等防止対策推進法第2条により、以下のとおり定義づけられています。

  1. 業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡
  2. 業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
  3. 死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000053725.html

過労死等は長時間労働や過度なストレスなどにより起きますが、過労死等には働き方に関する様々な要因が関係します。

人は年齢を重ねると、身体は老化して血管が痛んで脳梗塞や脳出血、心臓の病気になります。ところが、過重労働によって睡眠時間が減り、緊張する仕事が続いて心が休まらない日々が続くと血圧が上がったり、身体のホルモンバランスが崩れたりして年齢よりも早く血管が痛んで、脳・心臓疾患を発症しやすくなります。

また、長時間労働が続いて睡眠が不足して著しく疲労が蓄積したり(長期間の過重負荷)、短期間に仕事が集中して一週間にわたって不眠不休の仕事をしたり(短期間の過重負荷)、仕事に関連した重大な人身事故や自然災害を含む重大な事故に遭遇して心身に急に負担がかかったりすると(異常な出来事への遭遇)、年齢を重ねるよりも早く血管が痛むことが知られています(図1)。

図1図1一方、仕事が原因の心の病気はもう少し複雑です。事故や災害の体験、仕事の失敗、過重な責任、仕事の量・質によって結果的に長時間労働になった、役割・地位が変化した、職場の対人関係でのトラブル、パワーハラスメントなどがあり、仕事以外の心への負担(業務以外の心理的負荷)がない場合には、仕事が原因で心の病気(精神障害)になることがあります。そこには、個人のストレスに対する反応のしやすさも大きく影響します。(図2

図2
参考:厚生労働省「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」報告書(32ページ)

いずれにしても、過労死等を防止するためには、労働者一人一人の健康を守るための取り組みが必要とされ、企業や組織もそれをサポートする体制を整えることが求められています。

長時間労働は過労死等の大きな要因

では、過労死等の労災認定基準には過労死等の要因となる働き方としてどのようなものあげられているのでしょうか?
以下に脳心臓疾患と精神障害のそれぞれのなる主な働き方をあげてみました。

■ 脳・心臓疾患
<過重労働の原因となる働き方の例>

  1. 長時間労働
  2. 労働時間以外の働き方の例
    • 勤務時間の不規則性
    • 出張の多い業務
    • 心理的負荷を伴う業務
    • 身体的負荷を伴う業務
    • 寒冷暑熱等の作業環境

https://www.mhlw.go.jp/content/001004355.pdf

■ 精神障害
<心理的負荷が大きい主な働き方の例>

  1. 事故や災害の体験
  2. 仕事の失敗、過重な責任の発生
  3. 仕事の量・質の変化(長時間労働、連続勤務など)
  4. 役割・地位の変化
  5. パワーハラスメント
  6. 対人関係
  7. セクシュアルハラスメント、など

https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/090316.html

 以上をご覧になれば分かるように、脳・心臓疾患と精神障害の要因にどちらも長時間労働が含まれています。このことから長時間労働は過労死等の大きな要因であると言えます。では、どれぐらいの長時間労働が健康障害のリスクが高いのでしょうか?厚生労働省が出している時間外・休日労働時間と健康障害リスクの関係を示した図3をご覧ください。

図3図3
参考:過労死等を防止するための対策BOOK
脳・心臓疾患においては月45時間以内の時間外・休日労働時間であれば健康障害のリスクは低いと考えられています。しかし、それが増加するにつれて月100時間超または2~6か月平均で月80時間を超えた場合、健康障害のリスクは高くなります。参考に月80時間超の時間外労働となるのはどのような生活になるのか図4にシミュレートした生活パターンを示します。毎日4時間の時間外労働を行い22時まで働いて、これを月20日間繰り返した場合、月80時間の時間外労働となります。

図4図4

以上、「過労死等はどのように起きるの?」について説明してきました。繰り返しになりますが、その原因は働き方にあります。過労死等が発症した職場では、過労死等を被災した方だけではなく同じように働く同僚の方にもリスクが高い働き方が存在しているかもしれません。そのような意味でも、過重労働の問題をお一人で悩むのではなく、他の同僚や上司に相談することや職場の産業保健スタッフ、行政の機関、労働組合などの様々なチャンネルを使って職場環境を改善していくことこそが重要であると思います。以下に参考になる情報をお示ししますのでご活用いただければ幸いです。

吉川 徹・久保 智英(よしかわ とおる・くぼ ともひで)
記事を書いた人

吉川 徹・久保 智英(よしかわ とおる・くぼ ともひで)

吉川徹:過労死等防止調査研究センター(RECORDs)のセンター長代理で、専門分野は産業安全保健学、産業医学、国際保健学。事案研究班と対策実装班に所属。久保智英:RECORDsの上席研究員で、専門分野は産業保健心理学、睡眠衛生学、労働科学。現場介入調査班と循環器班に所属。