不規則な勤務
不規則勤務とは?
不規則な勤務と言われてどのような働き方を思い浮かべるでしょうか。実は労働基準法をはじめとする法令類にもはっきりとした定義は示されていません。2021年に見直された脳・心臓疾患の労災認定基準では、長時間労働以外の問題のある働き方として「不規則な勤務」が、「交替制勤務」や「深夜勤務」とともに挙げられており、これらの勤務が「勤務時間帯やその変更が生体リズム(概日リズム)と生活リズムの位相のずれを生じさせ、疲労の蓄積に影響を及ぼすことが考えられる」と記されています(脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会、2021)。
不規則勤務と過労死等の関連
脳・心臓疾患の労災認定において、不規則な勤務は、具体的には勤務スケジュールの変更の程度や始業・終業時刻のばらつきの程度、勤務のために夜間に十分な睡眠がとれない程度、休憩・仮眠の取得状況を評価することが妥当とされています。このような働き方は運輸業で多く見られ、調査復命書の解析において脳・心臓疾患を発症したトラックドライバーでは、長時間の時間外労働に加えて出勤時刻が不規則な夜間・早朝勤務が多く見られました1)。
不規則勤務の健康影響
現役の男性トラックドライバーを対象とした全国規模のアンケート調査では、1,947人のうちの約2割で高血圧症と肥満の既往歴がそれぞれ見られ、高血圧症は夜間早朝勤務を伴う日帰り運転との関連が、肥満は2泊以上の長距離運転との関連が示されました。高血圧症と肥満の他にも脂質異常症や糖尿病が脳・心臓疾患発症のリスク要因として挙げられますが、これらの既往歴は時間外労働や睡眠時間といった量的な指標との関連は見られず、不規則勤務のような質的な指標との関連が示されました2)。
不規則勤務の負担軽減策
「不規則な勤務」の健康リスクはわかりましたが、不規則な勤務のどのような働き方や休み方が問題なのでしょうか。アンケート調査では、個人内で一定しない、勤務スケジュールの変更の程度や始業・終業時刻のばらつきの程度、勤務のために夜間に十分な睡眠がとれない程度などの不規則な勤務の特徴それぞれの影響を見ることはできませんでした。そこで、不規則勤務を行う60人のトラックドライバーを対象に1か月間の血圧、動脈硬化度と睡眠測定を行いました。その結果、1か月間の中でも夜勤や、夜勤に伴う出勤時間の変動や短い睡眠時間が血圧上昇と関連していることがわかりました。脳・心臓疾患発症リスクとなる血圧上昇の機会を減らすには、夜勤スケジュールの調整が重要であると思われます3)。
出典
1) 酒井一博,佐々木司(2018)運輸業・郵便業における過労死(脳・心臓疾患)の予測及び防止を目的とした資料解析に関する研究.過労死等の実態解明と防止対策に関する総合的な労働安全衛生研究 平成29年度 総括・分担研究報告書 P.102-129.
2) 松元俊,久保智英,井澤修平,池田大樹,高橋正也,甲田茂樹(2022)トラックドライバーの健康障害と過労状態に関連する労働生活要因の検討. 産業衛生学雑誌, 64(1) 1-11.
3) 松元俊,久保智英,井澤修平,池田大樹,高橋正也(2023)地場トラックドライバーの職場における血圧上昇要因の検討.過労死等の実態解明と防止対策に関する総合的な労働安全衛生研究 令和4年度 総括・分担研究報告書 P.321-326.