【令和3年度】 医師の過労死等の労災認定事案の特徴に関する研究

  • 令和3年度
  • 吉川 徹
  • 労災事案分析
  • 精神障害

研究要旨

この研究から分かったこと

医師の過労死等では精神障害の件数が増加している。医師の精神障害の過労死等では女性が半数、臨床研修医が半数、自殺事案が4割であった。

目的

医師の過労死等の実態を明らかにする。あわせて医療・福祉業における職種別の過労死等の実態を把握する。

方法

過去約10年間に業務上として認定された医療・福祉業の脳・心臓疾患事案(以下「脳心事案」)73件、精神障害・自殺事案(以下「精神事案」)603件を分析対象とし、過労死等データベース(医療・福祉業版)を作成し、疾患別、性別、年代、職種などの基礎集計を作成した。また、医師を対象として疾患別、性別、年齢、生死、診療科、過去10年の経年変化等をまとめた。

結果

医療・福祉業の労災認定事案の7割が女性で、脳心事案では男性が8割弱、精神事案では女性が7 割強と多数を占めた。脳心事案では死亡は半数弱を占め、精神の死亡(自殺)は1 割弱であった。経年変化では精神事案は10年で約2倍に増加していた。職種では労災認定事案全体で介護職員が3割、看護師が2割強、管理・事務・営業職が2割を占めた。医師の過労死等では過去10年の脳心事案は25 件、精神事案は28件で、経年変化を見ると平成27年度以降の5年間では、その前の5年間に比べて精神障害の認定件数が8件から20件と2倍以上となり、医師の精神事案の増加が顕著であった。また、医師の精神事案は女性医師が半数、約4割が自殺事案であり、臨床研修医の占める割合は約半数であった。

考察

医師の精神事案の増加の事由には、社会情勢の変化を受けた申請率の変化、医師の労働環境の悪化、医師の健康支援方法の変化、医師個人の特性の変化の存在等が推測された。医師は自殺リスクが高い職種とされるが、労災認定事案だけでない実態の把握と、医師の置かれている現在の労働環境に対応した医師の自殺防止策の検討が必要である。医療・福祉業全体でも精神障害の労災認定事案が増加傾向であり、特に介護職員や病院事務職への過労死等防止対策の取り組みも急がれる。

キーワード

医師、臨床研修医、精神障害

執筆者

吉川 徹

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