【令和3年度】 脳・心臓疾患の過労死等事案におけるくも膜下出血の病態に関する研究

  • 令和3年度
  • その他
  • 労災事案分析
  • 脳・心疾患
  • 長時間労働

研究要旨

この研究から分かったこと

業務上認定事案においてくも膜下出血の出血源として椎骨動脈解離が有意に多く発生しており、発症6か月前の時間外労働時間が80時間以上で発生リスクが有意に高かった。くも膜下出血による過労死発症メカニズムに椎骨動脈解離が関与している可能性が示唆された。

目的

過重労働と循環器疾患の発症の関連を示す報告はあるものの、そのメカニズムについてはいまだ不明な点が多い。過重労働によるくも膜下出血発症メカニズムを探るため、くも膜下出血の出血源となる脳動脈瘤(責任動脈瘤)の部位について業務上認定事案と業務外認定事案との比較検討を行った。

方法

調査復命書の記載内容に基づき作成された過労死等DB(平成22年4月~平成27年3月の5 年間分)を用い、決定時疾患名がくも膜下出血であった業務上認定事案359件及び業務外認定事案301件を対象に、くも膜下出血の責任動脈瘤、性別、年齢、喫煙、飲酒、職種、発症6か月前平均時間外労働時間、前駆症状の分析を行った。また、業務上認定事案において多く見られた椎骨動脈解離について、業務外認定事案に対する業務上認定事案及び時間外労働時間別の発症リスクをロジスティックス回帰分析で分析した。

結果

業務上認定事案では椎骨動脈瘤が責任動脈瘤の17.0%を占め業務外認定事案の9.6%と比較し有意に多く、業務上認定事案の椎骨動脈瘤では椎骨動脈解離がその83.6%を占めていた。椎骨動脈解離例では、頭痛の前駆症状が約半数で認められた。椎骨動脈解離の発症は業務上事案でOR 1.92 (95%CI:1.04-3.55)と有意に高かった。さらに、発症前6か月平均の時間外労働時間80-99時間群、100時間以上群でそれぞれOR 2.31 (95%CI: 1.09-4.92)、2.81(95%CI: 1.31-6.03)と有意に高かった(属性を調整後)。

考察

本研究では、業務上認定事案において椎骨動脈解離の発症が有意に多いことを明らかにした。椎骨動脈解離と長時間労働との関連を調べた研究は過去になく、くも膜下出血による過労死の発生メカニズムを示唆する重要な知見であると考える。今後、長時間労働が椎骨動脈解離の発症を引き起こす詳細なメカニズムについて研究が必要である。また、椎骨動脈解離例の約半数に頭痛の前駆症状が認められた事から、長時間労働者の面接指導などにおいて警告症状として留意した方が良いと考えられた。

キーワード

過労死、椎骨動脈解離、くも膜下出血

執筆者

守田祐作

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