【令和4年度】 建設業における過労死等事案の労務管理視点からの分析-建設業における精神障害認定事案の社会保険労務士の視点に基づくケーススタディ研究-

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研究要旨

この研究から分かったこと

長時間労働の背景に発注者、元請や親事業等からの強い要請があり、下請けや子、孫企業は応じなければいけない契約主従関係と業界、企業風土が確認された。長時間労働を容認する風土の改善が喫緊の課題であり、同時にコンプライアンス意識の醸成、企業側の業務量管理、それらを理解した人材育成が急がれる。

目的

過労死等の実態解明と防止対策をより着実に進めるためには、医学的知見に基づいた研究に加え、社会科学的研究が不可欠である。そのため実際的な労務管理の観点から過労死等防止策を検討することを目的とする。令和4 年度は時間外労働上限規制が始まる建設業において、特に「極度の長時間労働」が心理的負荷要因として取り上げられた精神障害の事案を対象とした。

方法

先行研究から過労死等の長時間労働の要因とされた3 視点に注目した。すなわち、「1.出退勤管理や時間外労働に係る自己申告制の運用等に伴い労働時間が正確に把握されていない」、「2.管理監督者扱い等に伴い労働時間の状況の把握が疎かになっていた」、「3.実労働時間は把握されていたものの実効性のある長時間労働対策が行われていなかった」の典型的な自殺事例を取り上げ、労務管理視点から防止対策の検討を行った。

結果

1、2 に関しては、適正な労働時間管理が行われていないため事業主が把握した労働時間と実際の労働時間に著しい乖離が見られた。3 ケースとも自殺前の直近1 か月は100 時間を超えているが、会社に申告した労働時間と異なるため上司の支援や長時間労働の面談などには繋がっていなかった。3 に関しては、自殺までの6 か月間、毎月時間外労働は100 時間を超え、その実態を会社は把握しているが、長時間労働の背景や原因の探求、改善に向けての具体的な指導はなく、労働者の勤務実態の把握のみで終わっていた。

考察

過重労働による健康障害防止のため36 協定締結や労働時間管理の徹底などの法令遵守が重要であるが、その実装のため産業保健管理と労務管理の両視点から、健康リスクや経営的なリスクを回避し、健全な経営のための法令趣旨の理解やその周知不足が本過労死等事案の強い背景と推測された。

キーワード

建設業、極度の長時間労働、健康確保措置

執筆者

中辻めぐみ

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