【平成28年度】 脳・心臓疾患及び精神障害の労災業務外事案の実態に関する研究
研究要旨
過去約5年間のわが国における脳・心臓疾患及び精神障害の労災不支給決定事案(「業務外」事案)についての情報をデータベース化し、これまで詳細が報告されていなかった業務外事案の実態を把握することを目的とした。平成22年1月から平成27年3月までの脳・心臓疾患と精神障害の業務外事案について、全国の労働局及び労働基準監督署より収集された関連情報のデータベースを構築し解析した。
最終的にデータベース化されたのは脳・心臓疾患事案1,961件及び精神障害事案のうち平成23年12月策定の「心理的負荷による精神障害の認定基準」に基づいて業務外と決定された2,174件であった。脳・心臓疾患については、業務上事案と同様に、男性、発症時年齢が50~59歳、決定時疾患が脳内出血のものが多かった。業種別では、建設業、運輸業・郵便業、卸売業・小売業の順に事案数が多かった。これに対して、女性では脳血管疾患に集中し、対人サービスのある業種が事案の75%を占めた。また、業種・職種別に疾患をみると、男性では多くの業種・職種において脳内出血の割合が高く、女性では多くの業種・職種においてくも膜下出血の割合が高かった。労働負荷は、労働時間以外の負荷要因の交代勤務・深夜勤務が最も多くみられたものの事案の10%ほどであった。時間外労働時間は、発症前1か月から6か月の間で平均30時間ほどであった。精神障害については、業務上事案と同様に、業務外事案においても男性が多く、特に自殺事案では約9割が男性であった。発症年齢別では30~39歳及び40~49歳がほぼ同数で最も多かったが、自殺事案に限れば29歳以下が最も多かった。業種別では、雇用者総数の多い製造業、卸売業・小売業、医療・福祉などで事案数が多かった。疾患別では、業務上と同様、男女ともに自殺事案で気分[感情]障害の割合が高く、生存事案では神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害の割合が高かった。また、労災認定の対象となる精神障害の発症なし又は精神障害の発症の有無を特定不能と判断された事案も見受けられた。男女を問わず、最も多かった出来事は「上司とのトラブル」であった。今後、業務上・外を包括した労災請求事案全体を解析する観点からのより詳細な実態分析が必要である。
執筆者
山内 貴史