【令和2年度】 船員の労災認定事案の実態に関する研究

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研究要旨

過労死等防止調査研究センターが作成した過労死等認定事案のデータベースを活用し、平成22年度から29年度における船員(船員法上の船員以外の乗組員を含む)の過労死等認定事案を漁業だけでなく業種横断的に抽出し、その実態と被災に至る背景要因を検討した。

その結果、脳・心臓疾患33件、精神障害19件、合計52件(男性:51件、女性1件)が該当した。業種別では、漁業が5割、運輸業・郵便業が3割で、この2業種で多数を占めた。船種別では、漁船が6割、貨物船が3割であり、うち、国内航海に従事する内航船は8割、国際航海に従事する外航船は2割であった。また、乗組員数が10人未満の船が6割を占め、ほとんどが50人未満の船であった。疾患に注目した解析からは、脳・心臓疾患では死亡事案が約4割で、重症化してからの救急要請が多く、発症から病院までの搬送時間が長かった。認定事由としては「異常な出来事への遭遇」、「短期間の過重業務」がそれぞれ約1割で、約8割は「長期間の過重業務」で長い拘束時間と不規則勤務が常態化していることなどが確認された。精神障害は心的外傷後ストレス障害(PTSD)等を含む「重度ストレスへの反応及び適応障害」が半数を占め、うつ病エピソードが4割であった。精神障害を発症するに至った心理的負荷の出来事では、揚網機による負傷や転覆、爆発、他船との衝突等の船内事故、慣れない業務に起因する心理的負担、対人関係によるものに大別された。

船員の過労死等の防止のために、少人数の船上においても実施可能で、海上労働の実態に合わせた休息・仮眠などの確保を含む労働時間管理と健康管理、陸上からの医療支援の充実等が必要である。また、精神障害の労災認定事案は船上での事故等への遭遇が契機となっている事例も多く、海上労働の安全確保、船の安全航行が過労死等の防止にも重要なことが示唆された。

執筆者

岩浅 巧

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