【令和6年度】精神科医の視点による精神障害の労災認定事案におけるセクシュアルハラスメントに関する分析
研究要旨
この研究から分かったこと
セクハラでは製造業、建設業、強制わいせつ等では金融業,保険業に有意に被災者が多い。加えて、セクハラでは適応障害、強制わいせつ等では心的外傷後ストレス障害を発症することが多いことが明らかとなった。
目的
平成24年度~令和3年度における労災認定された精神障害事案(男女合計で5,090件)のうち、セクシュアルハラスメント(以下「セクハラ」という。)及び強制わいせつ等で労災認定された精神障害事案は439件(8.6%)を占めている。セクハラ被災者の中には二次的被害を恐れるために、相談や報告ができないケースも多くあるため、実際にはより多くの労働者がセクハラを被災していると考えられる。セクハラが労働者に及ぼす影響としては、抑うつ気分やアルコール依存、自尊心への悪影響など多岐にわたり、セクハラへの対策の重要性は極めて高い。本研究は、平成24年度~令和3年度における10年間のセクハラ及び強制わいせつ等で労災認定された精神障害事案のデータベースを基に基礎集計を行い、セクハラ及び強制わいせつ等の予防を目的とした詳細分析を行うものである。
方法
対象とする業種は全業種とし、平成24年度~令和3年度における10年間のデータベース(セクハラ331件、強制わいせつ等108件)を基に基礎集計を行い、さらに令和3年度のセクハラ57件、強制わいせつ等20件の調査復命書を精読し、分析を試みた。
結果
セクハラ被災者は331件であり、男性9件(2.7%)、女性322件(97.3%)であった。強制わいせつ等被災者は108件であり、男性3件(2.8%)、女性105件(97.2%)であった。セクハラ及び強制わいせつ等に関しては、少人数の事業場での被災者数が多く、女性のセクハラ被災者は製造業、建設業、女性の強制わいせつ等被災者は金融業,保険業に有意に多かった。セクハラでは適応障害を発症することが多く、強制わいせつ等では心的外傷後ストレス障害を発症することが多かった。
考察
セクハラ及び強制わいせつ等の共通した危険因子は、女性若年労働者、少人数の事業場であることが考えられた。セクハラ及び強制わいせつ等では事後の対応は困難であるため、被災者より相談があった際には、迅速かつ適切な対応が必要である。加えて、必要に応じて身体科だけではなく精神科医療にも繋げることが肝要である。
キーワード
セクハラ、強制わいせつ、心的外傷後ストレス障害
執筆者
髙橋 有記