【令和7年度】脳・心臓疾患及び精神障害の過労死等事案の経年変化解析

  • 令和7年度
  • 佐々木 毅
  • 労災事案分析
  • ハラスメント

研究要旨

この研究から分かったこと

近年の過労死等の業務上事案数の増加にともない属性等には短期的な変化は認められるが、中長期的には顕著な変化は認められなかった。精神障害事案の請求件数・決定件数の増加の主因の一つとして、対人関係の関連要因に留意する。

目的

脳・心臓疾患及び精神障害の過労死等事案について業務上及び業務外の過労死等データベースを構築・解析し、性別、発症時年齢階層、決定時疾患名、業種、健康管理等並びに労働時間以外の業務の過重性(負荷要因、出来事)等の経年変化を検討することを目的とした。また、精神障害に係る労災請求・認定件数の増加の実態と背景要因を検討した。

方法

過労死等データベースは、厚生労働省が『過労死等の労災補償状況』で公表しているデータ及び調査復命書等の提供を受け、データ整理(ラベリング等)・項目別入力・検査を経て、平成22~令和5年度の(1)業務上事案データベース(脳・心臓疾患3,510件、精神障害7,321件)、(2)業務外事案データベース(脳・心臓疾患5,719件、精神障害14,212件)を構築し、当該データベースから基本集計を行った。(3)精神障害の請求・決定件数増の検討は、既存統計を用いた記述的分析を行い、長期推移と業種別(特に医療・福祉)を検討した。

結果

平成22~令和5年度の業務上及び業務外事案の経年変化について、令和5年度は脳・心臓疾患は微増、精神障害は急増し、前年度に比べ割合等に差異のある属性があったものの通年では以下の通りであった。(1)業務上事案では、脳・心臓疾患は男性が約95%、年齢は40~59歳が多く、死亡は約37%、脳血管疾患が約6割、業種(大分類)は「運輸業,郵便業」が合計件数、雇用者100万人対換算値とも最も多く、また、精神障害は女性が37%で、年齢は50歳未満が多く、自殺(未遂を含む)が約15%、気分[感情]障害(F30~F39)が約43%、業種(大分類)で合計件数が多いのは「医療,福祉」であったが、雇用者100万人対換算値が高いのは「運輸業,郵便業」であった。(2)業務外事案では、脳・心臓疾患は男性が約85%、年齢は業務上事案に比べ50歳以上が多く、死亡は約34%、脳血管疾患が約6割、「運輸業,郵便業」が合計件数、雇用者100万人対換算値とも最も多く、また、精神障害は、女性が約45%、業務上事案に比べ29歳以下が少なく、自殺(未遂含む)が約10%、気分[感情]障害(F30~F39)が約38%、業種(大分類)で合計件数が多いのは「医療,福祉」であるが、雇用者100万人対換算値が高いのは「情報通信業」であった。(3)精神障害・自殺の労災請求件数の増加は雇用者数ではなく請求率の上昇によって説明され、特に医療・福祉分野で顕著であった。また、増加の主因は「対人関係」、とりわけ患者・利用者等とのトラブルの増加であった。一方、労働環境は急激に悪化したというより慢性的課題が継続している実態も確認された。

考察

令和5年度の業務上事案数は脳・心臓疾患、精神障害とも前年度に比べ増加しており、この部分の属性等に変化があるが、通年では属性等に顕著な違いはなく、これは業務外事案でもほぼ同様であった。また、精神障害事案の増加は、「医療,福祉業」での増加が顕著であることに加え、認識の変化や制度整備による可視化・救済拡大が重なった結果と考えられ、対策にはこれら複層的要因を踏まえた対応が必要である。増加要因とその防止視点に関する継続的な検討を要する。よって、過労死等予防対策を展開する上で、継続的なモニタリングとデータベースの構築は今後も必要と考えられる。

キーワード

業務上(労災支給)事案、業務外(労災不支給)事案、経年変化

執筆者

佐々木 毅

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