【令和7年度】労災認定された精神障害事案における精神医学的視点からみた自殺事案の解析
研究要旨
この研究から分かったこと
自殺未遂を含めた自殺予防対策は様々な心理社会的要因が背景にあるため、非常に難渋することも稀ではないが、精神科臨床医の初回面接でいかに希死念慮を含めた状態像を正確に診たて、適切な対応(休養や、家族及び職場への情報共有等)をすることが非常に重要であることが示唆された。
目的
令和5年度に労災認定された精神障害事案件数は883件であり、このうち未遂を含む自殺事案は79件で全体の8.9%を占めている。自殺がもたらす負の影響は計り知れないものがあり、自殺予防対策の重要性は極めて高い。本研究は、令和2年度~令和4年度の3年間の労災認定された精神障害事案における自殺事案のデータベースを基に基礎集計を行い、自殺予防を目的とした詳細分析を行うものである。
方法
対象とする業種は全業種とし、令和2年度~令和4年度の3年間の労災認定された精神障害事案における自殺事案のデータベース(自殺事案213件、自殺未遂事案14件)を基に基礎集計を行うとともに、令和4年度の自殺事案62件、自殺未遂事案5件の調査復命書を精読し、分析を行った。
結果
自殺事案は213件であり、男性205件(96.2%)、女性8件(3.8%)であった。自殺未遂事案は14件であり、男性8件(57.1%)、女性6件(42.9%)であった。自殺事案及び自殺未遂事案ともに事業場規模が0-49人の小規模事業場で多く発生していた。また、自殺事案ではうつ病エピソードが110件(51.6%)を占めており、自殺未遂事案では適応障害が5件(35.7%)を占めていた。業種に関しては、自殺事案では、製造業、建設業で有意に多く発生していた。労災認定要因に関しては、自殺事案及び自殺未遂事案ともに過重労働に関連する負荷要因だけではなく、⑤対人関係に分類される、「上司とのトラブルがあった」、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」がおよそ2割の事案でみられた。
考察
自殺事案及び自殺未遂事案の共通点としては、事業場規模が0-49人の小規模事業場で多く発生していることや、過重労働だけではなく対人関係に関する負荷要因も大きな一因となっていることが明らかとなった。一方で、自殺事案と自殺未遂事案の相違点としては、自殺未遂事案では、より適応障害が多いこと、遺書を用意している割合が圧倒的に少ないこと、そして精神疾患発症から企図までの期間が更に短いこと(1週間未満が半数を占めている)が明らかとなった。
キーワード
自殺、自殺未遂、うつ病エピソード、適応障害
執筆者
髙橋 有記