【平成29年度】 教育・学習支援業における労災認定事案の特徴に関する研究
研究要旨
「過労死等防止のための対策に関する大綱」で過労死等の多発が指摘されている5つの業種・職種(自動車運転従事者、教職員、IT産業、外食産業、医療等)のうち、本研究では、日本標準産業分類の教育・学習支援業とその中に含まれる学校の教職員について、過労死等調査研究センターが作成したデータベースを用いてその特徴及び典型例を抽出し、実態と背景要因を検討した。なお、本データベースは、地方公務員法の適用がある教職員で、地方公務員災害補償法に基づき(公務災害の)支給決定が認められた公務災害事案は含まれていないことに留意する必要がある。
教育・学習支援業の事案は、脳・心臓疾患事案が25件、精神障害事案が57件であり、脳・心臓疾患では92.0%が男性、精神障害では56.1%が男性であった。労災認定要因として、昨年度までに報告した脳・心臓疾患1,564件及び精神障害2,000件からなる全業種の労災認定事案全体(以下「全業種の労災認定事案」という。)と同様、脳・心臓疾患事案では「長期間の過重業務」による認定が多い一方、精神障害事案では「上司とのトラブルがあった」などの対人関係の出来事による認定の割合が大きかった。職種に関して、教員の事案は脳・心臓疾患で21件、精神障害で22件であり、教員の中で多かった職種は、脳・心臓疾患事案、精神障害事案ともに大学教員(脳心7件、精神7件)、高等学校教員(脳心6件、精神7件)であった。本研究では労災認定事案のみを対象としたため、対象となる学校種(教育課程)に占める割合として、大学・高等学校の割合が大きく、中学校・小学校の割合が小さかったため、このような結果が示されたと考えられる。さらに、学校教員及び教員以外の教職員に職種を限定した分析結果から、負荷業務として大学教員では委員会・会議や出張が多く、高等学校教員では部活動顧問や担任が多いなど、職種ごとに異なった負荷があり、業務が多岐にわたっていることが示された。なお、特に精神障害事案において、教員以外の職種(学校の事務員や学習塾の教員など)の事案も多いことが明らかとなった。本研究の結果から、教職員の過労死等を防止するためには、長時間労働対策のみだけでなく、教育課程に応じたそれぞれの職種特有の負担を軽減するような支援の必要性が示唆された。
執筆者
髙田 琢弘