【令和7年度】対策実装研究アクション3:中小事業場への産業保健支援・サービス手法の検討
研究要旨
この研究から分かったこと
中小事業場では安全と健康確保に関する知識の理解と実践に課題があり、個別事業場単位の努力のみでは限界がある。安全衛生を人権デューデリジェンスの視点で捉え、業界団体やサプライチェーンを通じた連携型支援を構築することが、すべての働く人に産業保健サービスを届けるための重要な方向性である。
目的
中小事業場(中小規模事業場)における過労死等防止を含む安全衛生活動の向上を目的として、効果的かつ持続可能な健康管理支援方法およびその実装手法を検討した。特に、産業保健専門職が十分に配置されていない事業場への支援の在り方に着目した。
方法
(1)令和6年度までに開発した事業場安全衛生体制整備に関する自律的管理支援ツールであるセルフチェックシート(SCS)を公開し、PDF版およびWeb版として展開した。(2)実装研究チームの重点対象である運輸・郵便業、建設業に関連する産業保健専門職間の情報共有と課題検討を目的として、学会・研究会およびメーリングリストによるネットワークを形成した。(3)産業保健サービスが届いていない小規模事業場への支援モデルとして、企業外労働衛生機関と業界団体が連携する「訪問型BOHS(Visiting Basic Occupational Health Service for Small Businesses)」の展開可能性を検討した。
結果
セルフチェックシートは令和7年5月に過労死等防止調査研究センター(RECORDs)HPに公開され、PDFダウンロード数は延べ121件(2025年12月末時点)、32都道府県および海外からのアクセスが確認された。利用者の約4割が「安全衛生活動に活用」と回答した。一方で利用者は比較的規模の大きい事業場や支援専門職が多く、小規模事業場への直接的到達は限定的であった。ネットワーク活動では学会自由集会等に20~30名が参加し、現在50件を超える登録者により情報交換が継続している。訪問型BOHS鹿児島モデルでは50人未満事業場への訪問支援を実施し、新規産業保健サービス契約に至った事例も認められたが、他地域展開には人的・制度的課題が確認された。これらの実践より、JNIOSH-BOHS推進体系を整理した。
考察
セルフチェックシートは法令遵守事項を踏まえ自社課題を可視化する自律的管理支援ツールとして一定の有用性を示したが、活用促進には導入支援体制の整備が不可欠である。またILO/WHOのBOHS概念を参照し整理したJNIOSH-BOHSモデルを発展させることにより、日本における個別健康管理と高度産業保健との間に存在する小規模事業場支援の構造的ギャップが明確化された。訪問型BOHSは既存資源を活用した現実的アプローチとなり得るが、持続可能な制度設計とインセンティブ構築が今後の課題である。
キーワード
中小事業場、セルフチェックシート(SCS)、訪問型BOHS、運輸・郵便業
執筆者
吉川 徹