【令和3年度】 建設業における過労死等事案の労務管理視点からの分析 ~建設業における精神障害認定事案の社会保険労務士の視点に基づくケーススタディ研究~
研究要旨
この研究から分かったこと
元方事業者には、建設現場安全管理指針に基づく安全衛生管理の徹底と、被災労働者の所属事業場には、安全衛生教育(職長教育、作業員への教育)、責任体制の徹底を、被災労働者には自己の安全を守るための意識向上が望ましいと思われる。さらに重篤な災害が発生する可能性のある作業では災害後のメンタルヘルス対策も重要と思われる。
目的
これまでの過労死等予防に関わる医学的知見に基づいた研究に加え、実装に導いていくためには、社会科学的研究が必要である。そのため実際的な労務管理の観点から過労死等防止策を検討する。
方法
脳・心臓疾患、精神障害等で過労死等として業務上認定された事案の調査復命書より典型事例を取り上げ、ケーススタディ的に検討を行う。本報告では、建設業において墜落災害を契機として発症した精神障害による過労死等事案を取り上げ、災害発生前、発生時、発生後に分けて出来事と疾病の発生経過から、精神障害発症防止の視点から検討を行った。また、労務管理の視点として特に建設業における安全管理と災害防止について検討を行った。この事案では、墜落災害後の入院中に「せん妄」、墜落災害遭遇後3 年目に「不安障害」「重度ストレス反応及び適応障害」を発症している。
結果
精神障害等の起因となったものは「業務上の負傷としての労働災害」であり、墜落災害を防止するための措置を行うことは結果的に精神障害の発症を防ぐことにも繋がることが確認された。法令順守、不安全行動防止のために、安全衛生教育の実施が重要である。また、重篤な業務上の負傷後の迅速かつ適切な救急措置、療養期間中に症状が悪化する可能性のある精神障害への対応、受傷後一定時間を経て発症する心的外傷ストレス障害(PTSD)等への対応は、負傷災害後の精神障害の発症の防止のために重要であることも確認された。
考察
重篤な災害そのものを予防すると同時に、災害後の対応として、被災労働者の復職支援、認知支援、再就職支援も精神障害の発症抑制に重要と考えられた。
キーワード
建設業、法令順守と安全衛生教育、災害後のメンタルヘルス
執筆者
中辻めぐみ