【平成30年度】 精神障害の労災認定事案における記述内容の研究

  • 平成30年度
  • その他
  • 事案分析:精神障害

研究要旨

本研究は、精神障害の労災認定事案を対象とし、調査復命書等の記述内容の質的分析を行うものである。平成30年度は、若年者(発病時年齢39歳以下)・生存事案において過重労働を主要因とするケースを対象に、試行的な分析を行った。

分析方法は、業務負荷に関する被災者本人の問題認識と、職場の上司・同僚等の事実認識・評価を照らし合わせることで、事案の経過における被災者の業務負荷や職場の状況について把握するものである。

分析の結果、被災者の業務負荷や職場の状況については、分析事案の中でいくつかの共通性が見出された。そのひとつの形は、過酷な労働環境と適応困難に焦点があるケースである。勤続年数が短い初期キャリアの事案が多く含まれ、仕事の忙しさや睡眠不足等による体力的な問題、仕事のリズムへの適応の難しさが多く指摘される。こうしたケースでは、職場において、多忙な働き方や被災者の業務負荷への問題意識が薄い場合も見られる。次に、被災者が業務の責任やノルマを強く意識していたことに負荷の焦点がある事例もあるが、こうしたケースについて、職場の上司・同僚の認識を見ると、業務責任・達成義務の強さよりも、被災者の性格特性(責任感が強い等)に起因する部分が大きいとされる場合もある。さらには、勤め先である程度キャリアを重ねた事例を中心に、被災者の精神障害発病を機に、被災者が担っていた業務負担の重さ・困難性について、職場でも問題だったとして再認識されたケースが見られる。なお、精神障害発病に関わる体調変化については、多くの場合、不眠・睡眠不足をはじめ、頭痛、食欲不振、集中力低下等として、被災者においては医療機関の受診以前から異変が認識され、遅刻や欠勤等として行動面に現れていた場合もある。一方、職場の上司・同僚においては、それが精神障害発病に関わる異変として受け止められていなかったことも多く、認識に相違がある。

このように、被災者と周囲相互の認識を照らし合わせることで、精神障害を生じさせうる業務負荷や職場の状況を浮き彫りにすることができる。企業の常識や業界の慣例にとらわれず、労働環境の改善、職場風土の見直しが求められる。

執筆者

髙見 具広

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