【令和元年度】 裁量労働制対象者の労災認定事案の特徴に関する研究

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研究要旨

平成23年度から平成28年度に支給決定された脳・心臓疾患と精神障害(自殺を含む)の労災認定事案のうち、裁量労働制が適用されていた労働者の事案を対象に解析を行い、その実態と背景要因を明らかにすることを目的とした。

都道府県労働局及び労働基準監督署より過労死等防止調査研究センターに送付された労災認定事案の調査復命書のうち、裁量労働制対象者の事案61件を対象とした。61件のうち脳・心臓疾患の事案は22件で、精神障害の事案は39件であった。脳・心臓疾患事案の内訳は、専門業務型裁量労働制の事案が21件、企画業務型裁量労働制の事案が1件であった。精神障害事案の内訳は、専門業務型裁量労働制の事案が37件、企画業務型裁量労働制の事案が2件であった。

業種を見ると、脳・心臓疾患及び精神障害ともに全件数の約4割を情報通信業が占めていた。職種については、脳・心臓疾患では教員、精神障害ではシステムエンジニアをはじめとする情報処理・通信技術者の事案が最も多かった。発症時年齢層を見ると、脳・心臓疾患及び精神障害ともに30~40歳代が最も多く、死亡時年齢層では50歳未満に全ての事案が該当した。また、今回対象とした全事案において週休2日制又は完全週休2日制が最も多かったが、主に出勤簿や本人の申告によって出退勤が管理されていた。疾患については、脳・心臓疾患では心停止(心臓性突然死を含む)、精神障害ではうつ病エピソードが多かった。脳・心臓疾患の労災認定事由では、全ての事案で長期間の過重業務が認められ、時間外労働時間数を見ると発症前4か月から3か月においては100時間を超えていた。また、労働時間以外の負荷要因については、出張の多い業務、精神的緊張を伴う業務、拘束時間の長い勤務の順であった。精神障害事案の心理的負荷を生じさせる出来事については、極度の長時間労働、恒常的な長時間労働及び仕事の量・質などの長時間労働に関連する出来事が多く、他に対人関係の問題も見られた。以上のように、支給決定された裁量労働制の事案について、各事案の発生状況、労災認定事由などから、長時間労働による過重業務、実労働時間の未把握などの実態が明らかとなった。

これらを踏まえ裁量労働制の効果的な運用のためには、脳・心臓疾患及び精神障害ともに業種・職種の特徴を考慮しつつ、若年から中年齢層を中心に、時間外労働の削減対策やメンタルヘルス対策を検討する重要性が考えられる。また、裁量労働制の制度の趣旨に沿った労働環境の見直しも望まれる。

執筆者

菅 知絵美

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