【令和元年度】 裁量労働制適用者の労災認定事例の分析

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研究要旨

裁量労働制が適用されていることと労働災害発生の関係性、そして、災害発生の具体的要因を探ることを目的として、平成23年度から平成28年度までに業務上認定された裁量労働制適用者に係る脳・心臓疾患事案と精神障害事案について、被災者の労働時間・職務遂行の状況や、事業場・上司による職場管理などの視点から事例分析を行った。

その結果、裁量労働制適用者に係る脳・心臓疾患並びに精神障害発症の機序は、長期にわたる長時間労働及びその背景としての、業務の専門性あるいは業務区分の明確性ゆえに他者との協働が困難ではないかということ、また特に精神事案においては被災者の性格も相俟って業務に過重な負荷がかかっていることであると考えられる。さらに、精神事案については、上記業務負荷の問題とともに、あるいは別個独立して、職場における人間関係を契機として業務上の心理的負荷が生じ、労働災害が発生しているものと見られる。

こうした事態に適切に対処しうるのは第一次的には職場の管理職であろうと思われるところ、事業場・企業としては、業務の采配などとともに、管理職の職責として、職場で生じる諸問題について適切に対応しうるよう権限を与え職責を課すこと、またそうした管理職人材を配置・育成するなどの方策が求められるということを提起した。事業場・企業としても、労働者の業務負荷を軽減することにつなげていくために、裁量労働制のみなし時間を適正なものとすること、出退勤管理の方法に万全を期し、裁量労働制適用者の実労働時間管理を適切に行ったうえで、健康福祉確保措置や苦情処理措置を適正に運用していくことが必要である。その一方で、裁量労働制適用者にあっても、制度を適切に理解し、自ら働き過ぎとならないよう律しつつ勤務することも必要である。

執筆者

池添 邦弘

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