【令和元年度】 精神障害・長時間労働関連事案の特徴及び負荷認識に関する分析
研究要旨
平成22年1月から平成27年3月までに支給決定された精神障害の労災認定事案のうち、長時間労働が心理的負荷に大きく関わるケースを対象に、その事案特性に関する集計と、調査復命書等の記述内容の分析を行うものである。
まず、認定事実をもとに、長時間労働が心理的負荷に大きく関わる「長時間労働関連事案」の特徴を把握するための基礎集計を行った。生存事案で302件、自殺事案で120件、合計422件がこれに該当する(発病時年齢59歳以下、正社員、従業員規模10人以上事業場の事案において集計)。全体に占める長時間労働関連事案の割合は、生存事案において40.0%、自殺事案において66.3%である。長時間労働関連事案の内訳について、生存・自殺事案を比較すると、生存事案では、自殺事案と比べ、勤続年数の短い事案、勤め先経験数の多い事案の割合が高い。業種や職種においても、生存事案と自殺事案では分布の特徴が異なるなど、被災者属性に相違が見られる。
次に、長時間労働関連事案のうち生存事案について、長時間労働の環境下で、当事者におけるどのような認識・社会関係の下で精神障害発病がもたらされるのか、業務負荷に関する当事者の認識と事案経過に着目することで検討した。方法は、調査復命書等の記述内容に基づき、被災者の申述からうかがえる業務負荷の認識と、周囲(職場の上司・同僚等)の事実認識との比較対照から、事案を類型的に把握するものである。発病時年齢50代の長時間労働関連・生存事案43件を見ると、事案からは、「ムリが限界に」「業務・環境への適応」「厳しすぎる指導」「過度の追及」「不当な扱い」という類型が立ち上がる。
長時間労働下での精神障害発病プロセスにおいては、被災者の負荷認識に関していくつかの特徴的な形があることがうかがえる。労働者の精神的健康を著しく阻害しうる長時間労働の是正が求められる。
執筆者
髙見 具広