【令和2年度】 脳・心臓疾患及び精神障害の労災認定事案の経年変化解析

  • 令和2年度
  • 佐々木 毅
  • 労災事案分析

研究要旨

平成22~30年度の9年間の脳・心臓疾患及び精神障害の労災認定事案についてデータベースを構築して解析し、(1)両事案の性別・年齢、疾患名、業種・職種、健康管理状況等及び出来事別の経年変化を検討すること、(2)過労死等防止対策推進法施行(平成26年11月)前後の実態を統計学的に比較・検討することを目的とした。

データベース構築は、(1)厚生労働省が「過労死等の労災補償状況」で公表しているデータ及び調査復命書等の提供を受け、データ整理・電子化・入力により平成30年度データベース(脳・心臓疾患238件、精神障害465件)を作成、(2)上記(1)と昨年度構築した平成22~29年度データベースを結合し、平成22~30年度データベース(脳・心臓疾患2,518件、精神障害3,982件)とした。

分析の結果、(1)脳・心臓疾患事案では、男性が95%超、発症時年齢は40歳以上が8割超、脳血管疾患と虚血性心臓疾患等の比は、男性では約6割:約4割、女性では約1割:約9割で、最も多いのは脳内出血で約3割、業種では事案数及び雇用者100万人対事案数においても「運輸業,郵便業」が最も多かった。精神障害事案では、男性が7割弱、発症時年齢は男性が40~49歳、女性が30~39歳がわずかながら多く、自殺事案では男性が95%超を占め40~49歳に多く、女性は20代と30代で7割弱を占め、男性は気分[感情]障害(F30~F39)が6割弱に対し女性は神経症性障害,ストレス関連障害及び身体表現性障害(F40~F48)が7割超で、男女全体で最も多い疾患はうつ病エピソードで4割超であった。両事案ともこのような特徴であったが、年度間で顕著な差異は見られなかった。(2)脳・心臓疾患事案では、被災者の事業場が就業規則及び賃金規程を有する割合、健康診断実施率が有意に増加、また、精神障害事案では、具体的出来事の「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事」、「2週間以上にわたる連続勤務」、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行」が有意に増加していることが認められた。

以上の結果を踏まえ、それらについて可能な限り深掘り分析を進めることと共に、継続的な労災認定事案のモニタリングが望まれる。

執筆者

佐々木 毅 

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