【令和2年度】 精神障害の労災認定事案におけるいじめ・暴力・ハラスメント並びに関連して生じた出来事の組み合わせに関する研究

  • 令和2年度
  • 木内 敬太
  • 事案分析:精神障害
  • ハラスメント

研究要旨

精神障害に関する事案の労災補償状況によれば支給決定件数は増加傾向が続いており、特に「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」や「セクシュアルハラスメントを受けた」は、出来事別の認定件数で多くを占めている。また、労災認定基準にパワーハラスメントが加えられたこともあり、いじめ、暴行(暴力)、ハラスメントに着目して、防止策を検討することの意義は大きい。精神障害の発症プロセスには、特定の出来事が単独で負荷要因となることもあれば、複数の出来事が複合的に負荷要因となることもある。そこで本研究では、労災認定事案を分類し、いじめ・暴力・ハラスメントが、単独並びに複合的に生じた事案の特徴を検討した。対象は平成23年度~平成29年度に支給決定された精神障害事案の内、平成23年度策定の認定基準によって審査された2,923件であり、単一項目認定事案についてはその頻度を集計した。複数項目認定事案については潜在クラス分析により、評価された出来事の組み合わせを分類した。

単一項目認定は1,339件認められた。複数項目認定は1,584件認められ、潜在クラス分析の結果、「人間関係の問題関連」、「仕事内容・量の変化や連勤関連」、「恒常的な長時間労働関連」、「傷病と惨事関連」、「複合的な問題」の5つに分類された。さらに、「人間関係の問題関連」について、潜在クラス分析を再度行い、次の3つの下位分類が得られた。下位分類1の「嫌がらせ、いじめ、暴行関連」は、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」、「配置転換があった」、「上司とのトラブルがあった」を中心とする組み合わせであった。下位分類2の「配置転換や上司とのトラブル関連」は、「配置転換があった」と「上司とのトラブルがあった」を中心とする組み合わせであった。下位分類3の「上司や同僚とのトラブル関連」は、「セクシュアルハラスメントを受けた」、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」、「退職を強要された」、「上司とのトラブルがあった」、「同僚とのトラブルがあった」を中心とする組み合わせであった。

いじめ・暴力・ハラスメントに関する事案のうち、複数項目の組み合わせによる認定が約半数を占めていた。本研究により、いじめ・暴力・ハラスメントと関連の深い他の出来事が明らかになった。複数の出来事が組み合わさった場合、それぞれの心理的負荷の程度が中程度であっても精神疾患を発症し、労災となる可能性がある。日ごろから中程度の心理的負荷を意識した対策が求められる。今後は、心理的負荷の強度を踏まえた分析や分類された事案の定性的な分析により、いじめ・暴力・ハラスメントに関連した事案に関してより有益な知見が得られる可能性がある。

執筆者

木内 敬太

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