【令和2年度】 精神障害の労災認定事案における「極度の長時間労働」事案の検討

  • 令和2年度
  • その他
  • 事案分析:精神障害
  • 長時間労働

研究要旨

平成22年1月から平成27年3月までに業務上認定された精神障害の労災認定事案(うち、自殺以外の事案(生存事案))において、特別な出来事「極度の長時間労働」に該当するケースを対象に、その事案特性に関する集計及び調査復命書等の記述内容の分析を行うものである。具体的には、調査復命書記載の「労働時間集計表」をもとに発病前1か月間の労働時間の状況(拘束時間、就業時間帯、休日取得状況等)を検討するとともに、長時間労働となった要因を、精神障害を発病した労働者本人の仕事の状況(業務量や進め方)、会社・上司による仕事管理、労働時間管理の観点から考察する。あわせて、精神障害発病に至る本人の心理的負荷の認識、上司・同僚等の事実認識を検討することにより、長時間労働による精神障害の労災認定事案を読み解く。

71事案を対象に分析した結果、相当数の事案で、頻繁な深夜労働や、休日がきわめて少ない連続勤務の実態が確認される。また、長時間労働になった要因については、出退勤管理や時間外労働に係る自己申告制の運用等に伴い労働時間が正確に把握されていなかったケースや、管理監督者扱い等に伴い労働時間の状況の把握が疎かになっていたケース、実労働時間は把握されていたものの実効性のある長時間労働対策が行われていなかったケースが見られた。さらには、長時間労働を防げなかった理由として、関係者の申述からは、人手不足や繁忙期に伴う膨大な業務量、業態的に長い営業時間、顧客都合によるタイトな納期・スケジュール、専門性・個別性の高い業務特性、業務責任者であったこと(店長や管理職等)、本人の仕事の進め方や性格特性が関わることが示される。そして、こうした長時間労働の状況等によって、心身の極度の疲弊、消耗を来し、精神障害発病の原因となっていたことが、各事案の記述内容から確認された。長時間労働を当然視する職場風土を見直す等、過労死等を予防するための労務管理(労働時間管理、仕事・職場管理)が求められる。

執筆者

髙見 具広

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