【令和2年度】 労働者の体力を簡便に測定するための指標開発
研究要旨
過労死やその関連疾患の予防策を講ずる疫学調査では、労働時間や労働環境などの外的要因だけでなく、労働者自身が備え持つ内的要因も重要となる。本研究班では、それら内的要因のうち、労働者自身が自らの身を守るための要素としての“体力”、特に疾病発症との関連が先行研究で示されている“心肺持久力(cardiorespiratoryfitness:CRF)”に着目し、疫学調査や個人の健康管理に資する新しいCRF評価法(仮称HRmix)の開発を目指している。
これまでの被験者実験により、HRmixを構成する調査・測定ツールとして、質問紙(WLAQ_CRF)と簡易体力検査法(JNIOSHステップテスト:JST)を開発した。さらに今期はそれらを用いて、多人数の労働者を対象とした疫学調査(横断研究)にも取り組み、HRmixで評価したCRFが心血管疾患リスクと強く関連する可能性を示した。一方、HRmixによるCRF評価には、先行研究同様、CRF実測値(VO2max)の低い者の推定値が過大評価されるため精度向上が必要であったり、多人数を対象にJSTを行う場合はさらに汎用性を高める必要があったりするなど、まだ課題も多い。また、今後、HRmixを大規模調査に発展させるためには、対象者の負担だけではなく、企業等の調査担当者の負担を軽減する仕組みも構築する必要がある。今後の研究では、JSTの改変に向けた実験、HRmixによるCRF評価の精度向上に向けた分析、疫学調査の拡大、またそれらを効率的に行うための調査システム構築に取り組む。HRmix研究を進展させることで、過労死関連疾患の予防に資する成果、ひいては労働者の健康増進に資する成果を社会に還元していきたい。