【令和5年度】 道路貨物運送業における精神障害等の業務外事案の解析
研究要旨
この研究から分かったこと
道路貨物運送業の労災不支給事案では、対人関係の「上司とのトラブル」の上司は管理職以上が多く、これらの管理職を対象としたハラスメント研修が必要と示唆された。また、既往歴が有りの場合、疾患(症状)の発症・悪化(または継続)が入社日から30日未満の時期に多いことが明らかになった。
目的
平成22 年度から令和元年度の10 年間の労災不支給(業務外)決定された精神障害事案のデータベースを構築し、その事案について検討を行うことを目的とする。
方法
労災不支給決定された8,614 件の精神障害事案データベースを使用し、道路貨物運送業315 件、運輸に附帯するサービス業21 件、合計336 件(運転業務179 件、非運転業務157 件)を対象とした。分析項目は、基本属性、雇用形態、生存・死亡の件数、発症時・死亡時年齢、決定時疾患名、業務における心理的負荷(平成23 年基準)、既往歴、入社日から疾患の発症・悪化(または継続)の日数、運行パターン、配送分類の記述統計を行った。また、業務外と業務上の結果(一部業務外間を含む)についてχ2 検定を行った。
結果
業務における心理的負荷では、「上司とのトラブルがあった」が109 件(40.7%)、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」が63 件(23.1%)の順で多かった。「上司とのトラブルがあった」の上司の役職は支店長/センター長/所長が27 件(20.8%)、社長/会長が19 件(14.6%)の順で多かった。既往歴は、有りが91 件(27.9%)、無しが235 件(72.1%)であり、既往歴の有無別に、入社日から発症・疾患の悪化(または継続)の日数の件数を見ると、1 年以上3 年未満は、有りが19 件(20.9%)、無しが55 件(23.4%)とそれぞれ最も多かった。
考察
業務における心理的負荷では、「上司とのトラブルがあった」、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」の順で多く、全業種(全件数)も同様の順であった。対人関係が最も多く、次いで、仕事量・質であり、業務外事案からもハラスメント対策と長時間労働対策の必要性が示唆された。既往歴では、業務外は既往歴有りが、業務上は既往歴無しがそれぞれ多く、入社30 日未満の時期における上司からの注意・指導は、特に既往歴有りの人には大きな精神的ダメージになり休業となった可能性が考えられる。
キーワード
労災不支給事案、ハラスメント、既往歴
執筆者