【令和5年度】 精神障害の労災認定事案におけるいじめ・暴力・ハラスメント-業務上及び業務外事案の出来事の特徴と自殺事案との関連-

  • 令和5年度
  • 木内 敬太
  • 事案分析:精神障害
  • ハラスメント

研究要旨

この研究から分かったこと

いじめ・暴力・ハラスメントに関連する事案の多くは、業務上と業務外の両方で同等に認められた。いじめ・暴力・ハラスメントに関連した事案では、自殺が起こりにくい可能性があるが、労災申請されにくい可能性もあり、引き続き、支援・相談体制の確保と、実態解明の研究が必要である。 

目的

本研究の目的は、精神障害に関する業務上・業務外の労災認定事案におけるいじめ・暴力・ハラスメントの特徴と、自殺事案との関連を検討することである。

方法

平成22 年度から令和元年度に支給(不支給)決定された精神障害事案12,511 件(業務上3,897 件、業務外8,614 件)を分析対象とした。業務上事案については出来事の認定なしを0 点、心理的負荷の評価「弱」、「中」、「強」それぞれを1 点、2 点、3 点として数値化して解析を行った。業務外事案については、出来事の記録があったものをすべて1 点として解析した。

結果

女性、事務従事者、専門的・技術的職業従事者の割合が業務外事案で多かった。「上司とのトラブルがあった」は、生存事案と自殺事案の両方、「同僚とのトラブルがあった」は、生存事案のみで、業務外事案の件数が多かった。いじめ・暴力・ハラスメントに関連する「上司とのトラブルがあった」、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」、「退職を強要された」、「セクシュアルハラスメントを受けた」、「業務に関連し、違法行為を強要された」に加え、「(重度の)病気やケガをした」、「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」、特別な出来事の「心理的負荷が極度のもの」は、自殺事案との負の関連が認められた。

考察

本研究の結果から、女性、事務従事者、専門的・技術的職業従事者、「上司とのトラブルがあった」の死亡・自殺事案、「同僚とのトラブルがあった」の生存事案で、精神障害の発症やメンタルヘルス不調で苦しんでいる方が多いことや、これらの方が適切に労災申請にアクセスできていることが示唆された。逆に、男性やオフィスワーク以外の労働者、「同僚とのトラブルがあった」の自殺事案では、労災申請が制限されている可能性がうかがわれた。いじめ・暴力・ハラスメントと自殺事案との負の関連については、1 つの可能性としては、これらの出来事を経験した場合には、サポートが受けられ、自責的になりにくいために、自殺に至ることが少ないことが考えられる。一方で、この結果は、自殺を伴ういじめ・暴力・ハラスメント事案において、労災申請が制限されている可能性を示唆するものでもある。

本研究は、労災申請された事案のみを扱っているという点で、サンプリングバイアスの影響は避けられないが、その範囲で、業務上・業務外のいじめ・暴力・ハラスメント事案の特徴を明らかにした。引き続き支援・相談体制の整備と、労災補償についての啓発を継続することが重要である。 

キーワード

生活習慣改善、自主性、アクション型

執筆者

木内 敬太

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