【令和5年度】 過労死等による労災補償保険給付と疾病に関する評価-支給金額から推定された労災認定事案の賃金の特徴-
研究要旨
この研究から分かったこと
労災保険給付から労災認定事案の賃金を推定することができた。特に、生存事案では中高年の男性と女性、死亡事案では20 代以下の男性などで労災認定事案の賃金が高かったことから、今後その背景についての詳細な検討が望まれる。
目的
業務上と認定された過労死等労災事案の特徴を、労災補償給付の額から推定した賃金の観点から明らかにすることを目的とする。
方法
平成27~29 年度に支給決定となった過労死等労災事案のうち、平成30 年度までに保険給付の行われた1,928 件(脳・心臓疾患730 件、精神障害1,198 件)について、保険給付の額や機械学習により月収額を推定した。過労死等防止調査研究センターの過労死等データベスと情報を突合させ、属性ごとの賃金の特徴を検討した。賃金構造基本統計調査の結果から収集した全国の労働者の賃金情報と労災認定事案の推定賃金の比較を行った。
結果
労災認定事案の推定月収の平均は、全体で、385,272 円、脳・心臓疾患383,031 円、精神障害386,638 円であった。特に生存事案では、平均絶対誤差(MAE: mean absolute error)は155,125.3 円と、賃金の推定精度は高くなかった。賃金と関連した要因として雇用形態、発症時年齢、いくつかの業種、職種、疾病が示された。全国の労働者の賃金情報との比較では、脳・心臓疾患及び精神障害の女性の生存事案の40 代と50 代、男性の生存事案の60 代以上、男性の死亡事案の20 代以下などで、労災認定事案の賃金は、全国の労働者の賃金よりも高かった。
考察
特定の属性と賃金の正の関連が認められたということは、その属性においては、賃金の高い群で、過労死等が発生しやすく、低い群で発生しにくいことを示唆している。例えば、賃金の高い群では、長時間労働の傾向があるために、労災が発生しやすいのかもしれない。一方で、属性と賃金の正の関連は、その属性において、賃金の高い群は労災を申請しやすく、低い群は申請しにくい可能性もある。例えば、賃金が高い場合には、給付金額も大きいことから、労災申請されやすいのかもしれない。推定賃金の検討結果を踏まえて、特定の属性の労働者の労災リスクや、労災申請の障壁について、さらに検討を進めることが重要である。
キーワード
労災補償保険給付、脳・心臓疾患、精神障害
執筆者