【令和6年度】脳・心臓疾患の過労死等事案における院外心肺停止の病態に関する研究
研究要旨
この研究から分かったこと
過重負荷の認められた業務上認定事案で不整脈による院外心肺停止が多く、時間外労働が月平均100時間を超えると虚血性心疾患よりも不整脈による院外心肺停止発症のリスクがより大きくなることが示唆された。特に心筋症のある者、35歳未満、過量飲酒者についてはよりリスクが大きいため注意が必要である。
目的
過重労働と循環器疾患の発症の関連を示す報告はあるものの、そのメカニズムについてはいまだ不明な点が多い。過重労働による心停止発症メカニズムを探るため、心停止の原因となる①心筋虚血による心停止、基礎心疾患を元にした②不整脈による心停止、③心不全による心停止の3つの病態について、過重負荷と関連の強い病態を明らかとすることを目的とした。
方法
調査復命書の記載内容に基づき作成された過労死等DB(脳・心臓疾患事案の業務上認定事案2,027件、平成22年4月~平成29年3月の7年間及び業務外認定事案1,961件、平成22年1月~平成27年3月の5年間分)を用い、決定時疾患名が心筋梗塞、狭心症、心停止のうち院外心肺停止を来した業務上認定事案450件及び業務外認定事案479件を対象に、心停止発症の病態分類、性別、年齢、喫煙、飲酒、職種、発症6か月前平均時間外労働時間を調査し、業務上認定事案と業務外認定事案で病態分類の比較を行った。また、業務上認定事案で多かった不整脈による心停止について、時間外労働時間別の発症リスクをロジスティック回帰分析で分析した。
結果
業務上認定事案は業務外認定事案に比較し、男性が多く、若年で、喫煙率が高く、非飲酒者が少なかった。業務上認定事案では不整脈による心停止が34%と業務外認定事案の25%と比べ有意に多かった。また、発症6か月前の平均時間外労働時間が100時間以上の群で有意に不整脈による心停止が多く、ロジスティック回帰分析で性、年代、職種等を調整後でも60時間未満群と比較して100時間以上の時間外労働群の不整脈発症リスクはOR2.12(1.24-3.61)倍と有意に高かった。
考察
長時間労働により心筋梗塞の発症リスクが増加することは複数の報告があるが、時間外労働が月平均100時間を超えると不整脈による心停止発症のリスクがより大きくなることが示唆された。長時間労働による睡眠時間の短縮が、不整脈発作を誘発した可能性が考えられる。
キーワード
過労死、院外心肺停止、不整脈
執筆者
守田 祐作