【令和6年度】精神障害の労災認定事案におけるいじめ・暴力・ハラスメント-令和3年度パワーハラスメント認定事案の分析-

  • 令和6年度
  • 木内 敬太
  • 事案分析:精神障害
  • ハラスメント

研究要旨

この研究から分かったこと

令和3年度のパワハラ認定事案の多くは「精神的な攻撃」を伴っていた。事業主・役員や管理者から部下に対するパワハラが多かった。事後対応がなされていても、形式的な対応にとどまるものが多かった。相談がなされていないと思われる事案も多く、職場や上司等による積極的な対応が求められる。

目的

本研究の目的は、令和3年度の精神障害に関する労災認定事案のうち、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」が認められた事案の特徴を検討することである。

方法

令和3年度に支給決定された精神障害事案629件(パワハラ認定事案150件を含む)を分析対象とした。

結果

パワハラの6類型では、精神的な攻撃を伴う事案が最も多かった(約89%)。パワハラ認定事案のうち、事後対応の有無が不明であったが約69%、事後対応ありが約25%、事後対応なしが約7%であった。パワハラの加害者は管理者(部長、課長、主任、店長等)が最も多く、約67%、被害者は部下が最も多く75%の事案に該当した。被害者の詳細について、半数程度は一般的な正社員であるが、残りの半数には、入社一年目をはじめ、係長・主任相当、非正規雇用、有資格者など、特定の弱い立場にある人が含まれていた。10代男性に対する身体的な攻撃や、10代女性に対する個の侵害、60代でのパワハラの割合の多さなど、年代、性別とパワハラ被害の関連が一部認められた。一部の業種、職種において、パワハラ認定事案の割合がやや多かった。ノルマの未達や非正規社員としての不利益取扱い、仕事のペースの変化、部下とのトラブルなど、具体的出来事とパワハラとの関連も認められた。パワハラのみの認定事案は91件であった。

考察

職場での厳しい叱責が度を越して精神的な攻撃となる事案が多く、特に管理的な地位にいる労働者への教育やトレーニングの提供が必要である。労災認定された事案の分析ではあるが、事後対応の不十分さが認められた。形式的な対応ではなく、当事者間の軋轢の解消や被害を訴える労働者の労働環境改善に主眼を置いた事後対応が必要である。入社一年目など、一部の属性の労働者は、弱い立場に置かれやすく、パワハラの被害にもあいやすい可能性が示唆された。

キーワード

いじめ・暴力・ハラスメント、パワーハラスメント、人間関係の問題

執筆者

木内 敬太

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