【令和6年度】道路貨物運送業における精神障害の自殺・死亡事案の解析
研究要旨
この研究から分かったこと
道路貨物運送業の業務上の自殺・死亡事案は、全て男性であった。業務における心理的負荷において、運転業務では、出来事「強」の「仕事の量・質」が最も多く、非運転業務では、「特別な出来事(極度の長時間労働)」が最も多いことが明らかになった。
目的
本研究では、平成22年度から令和3年度の12年間の労災支給決定された精神障害事案の自殺・死亡事案について検討を行うことを目的とする。
方法
労災支給決定された5,728件の精神障害事案データベースを使用し、道路貨物運送業49件、運輸に附帯するサービス業2件、合計51件(運転業務23件、非運転業務28件)を対象とした。分析項目は、基本属性、発症時・死亡時年齢、決定時疾患名、入社日から発症及び発症から自殺・死亡までの日数等とし、業務における心理的負荷(平成23年認定基準)の記述統計を行った。
結果
事案51件は全て男性であった。業務における心理的負荷の内、特別な出来事及び出来事「強」の単独の件数(35件)について、運転業務(17件)では、「仕事の量・質」が10件(58.8%)と最も多く、その内、8件が「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」であった。次いで「対人関係」が3件(17.6%)、「仕事の失敗、過重な責任の発生等」が2件(11.8%)の順であった。非運転業務(18件)では、「特別な出来事(極度の長時間労働)」が最も多く8件(44.4%)であり、その内、管理職及びその他がそれぞれ3件で最も多く、管理職の3件は、「異動による支店の立て直しとそれに伴う上司からの𠮟責」、「上司からの半年に及ぶ𠮟責及び業績見込み違い」、「地震による所内倉庫の復旧業務」による「特別な出来事(極度の長時間労働)」であった。
考察
業務における心理的負荷は、運転業務では、出来事「強」の「仕事の量・質」が最も多く、その80%が出来事「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」であり、長時間労働が常態化していたことによる自殺・死亡事案であることが明らかになった。非運転業務では、「特別な出来事(極度の長時間労働)」が最も多く、その内、管理職においては「仕事の失敗、過重な責任の発生等」に伴う上司とのトラブルが明らかになり、対人関係を考慮に入れた対策が必要と考えられる。対人関係は、件数は少ないが長時間労働要因の次に多い事案であり、加えて長時間労働要因に付随した要因も見られたためハラスメント対策が必要と考えられる。
キーワード
自殺・死亡事案、長時間労働、運転業務・非運転業務
執筆者