【令和6年度】「過労徴候しらべ改訂版」の妥当性検証-日本の労働者を対象としたウェブ調査の結果から-
研究要旨
この研究から分かったこと
過労徴候しらべ改訂版は、過重労働による過労徴候の増加や、休息による緩和を測定する上で有効である。但し、「精神症状」や「極度の身体不調」に関しては、さらなる概念的・測定的検討が望まれる。
目的
本研究の目的は、過労徴候しらべ改訂版の妥当性を、日本の労働者を対象としたウェブ調査の結果に基づいて検証することである。
方法
令和6年1月に日本の労働者を対象にウェブ調査を行い、得られたデータ6,936件を分析した。まず因子分析により因子的妥当性を確認し、その後、各項目の代表値や得点分布を検討した。さらに相関分析を用いて、過労徴候と他の変数(過重労働の経験、睡眠による休養、連休による休息、抑うつやストレス、脳・心臓疾患の徴候)との関連を検討した。加えて、過重労働の種類や年末年始の休息経験の有無による過労徴候の差も検証した。
結果
対象者の平均年齢は47歳(女性53%、男性46%)で、雇用形態は60%が無期雇用であった。業種・職種は多様であり、因子分析の結果、先行研究で報告されている3因子(「疲労感と睡眠障害」「精神症状」「極度の身体不調」)が概ね再確認されたが、一部の精神症状項目の因子負荷量は低めであった。また、各項目の得点は0(まったくなかった)に偏る傾向が見られ、床効果(データの分布が測定範囲の下限に偏っている状態)が示唆された。相関分析では、過労徴候が過重労働の経験、睡眠や連休による休息感、抑うつ・ストレス、脳・心臓疾患の徴候と関連していることが示された。さらに、過重労働の種類や連休の有無などによって過労徴候の程度が異なることも確認された。
考察
過労徴候しらべ改訂版は、比較的大規模な労働者を対象とした研究においても3因子構造が概ね支持され、他の変数との関連から、妥当性が支持された。一方で、床効果の存在や精神症状項目の因子負荷量の低さなど、改良が求められる点も確認された。「極度の身体不調」は、過重労働や連休による休息との関連が限定的であり、さらなる概念的な検討が求められる。過労死等の防止対策としては、特定の過重労働を無くすだけではなく、すべての過重労働がない状態を目指すことが重要であると示唆された。連休などの休息に関しては、物理的な休暇日数だけでなく、主観的な休息感の確保が過労徴候の緩和に有用である可能性が示された。
キーワード
過労、過重労働、患者報告式アウトカム尺度
執筆者