【令和6年度】過労死関連疾患の予防対策に向けた体力評価研究
研究要旨
この研究から分かったこと
mJSTは労働者が自己測定できるCRF評価法として有用である。しかし、mJSTのように運動強度が短時間で変動する体力測定では、手首装着型デバイスでのHR(すなわち脈拍)測定によるV.O2max推定は、妥当性がやや低下する可能性がある。
目的
過労死等の実態解明に向けては、労働環境などの外的要因だけでなく労働者自身の特性(内的要因)にも目を向ける必要がある。体力科学チームはそのような内的要因の1つである心肺持久力(cardiorespiratoryfitness:CRF)に着目しており、これまでの研究で労働者向けCRF評価法として、質問票(WLAQ)と簡易体力検査法(J-NIOSHステップテスト:JST)を開発した。最近はWLAQを用いた疫学調査研究やJSTの実用性を高める(自己測定を可能にする)ための実験研究に取り組んでいる。本稿では、改良版JST(mJST)の妥当性検証実験の結果(研究①)と、WLAQを用いたコホート研究の概要(研究②)について報告する。
方法
研究①の対象者はmJSTとランニングマシンによる最大酸素摂取量(V.O2max)測定(CRFの基準測定法)に参加した労働者男女49人(30~59歳)である。mJST実施中の心拍数(HR)測定は、実験スタッフによるモニター心電計での測定と、参加者自身による手首装着型デバイスでの測定の2手法で行った。研究②では、構築中の研究コホートのベースライン記述統計値をまとめた。主な調査項目は、WLAQから得られるCRF値や勤務時間等と、健診結果から得られる各種検査数値である。
結果
①mJST実施中のHRは手首装着型デバイスの値が心電計の値より総じて低かった。この影響もあり、手首装着型デバイスのHRを使ったmJSTでの推定V.O2maxと実測V.O2maxとの相関係数(r=0.68)は、先行研究における心電計のHRを使ったJSTでの相関係数(r=0.73)より低かったが、誤差評価値(SEE)はmJST(4.4mL・kg-1min-1)とJST(4.5mL・kg-1min-1)で同等であった。②構築中の研究コホートは、国内企業2社それぞれの社員グループと、研究所測定会の参加者グループの計3グループで構成している。コホート研究(長期追跡調査)としての活用が見込まれる対象者数は現段階で計2,400人ほどである。
考察
①HR測定に手首装着型デバイスを用いることによる課題はあるものの、mJSTはJSTの代替法として活用できそうである。②WLAQコホート研究は、外的因子としての労働時間と内的因子としてのCRFの相互的な健康影響を分析することを目的とした長期疫学調査研究である。追跡調査を継続して行い、成果に繋げたい。
キーワード
体力、心肺持久力、健康管理
執筆者