【平成29年度】 情報通信業における労災認定事案の特徴に関する研究
研究要旨
「過労死等防止のための対策に関する大綱」で過労死等の多発が指摘されている5つの業種・職種(自動車運転従事者、教職員、IT産業、外食産業、医療等)のうち、IT産業として日本標準産業分類の情報通信業を対象とし、過労死等調査研究センターが作成したデータベースを用いて実態と背景要因を検討した。
情報通信業では、雇用者100万人当たりの精神障害による労災認定事案数及び精神障害による労災認定された自殺事案数が高い比率を占めていた。この傾向は29歳以下で特に顕著であり、30歳代や女性の比率も高かった。そこで、この点をさらに詳しく調べるために、情報通信業の典型的職種として、情報サービス業に従事するシステムエンジニア(SE)35件及びプログラマー3件を対象に精神障害による労災認定事案の詳細分析を行った。その結果、精神疾患名は、うつ病エピソードが多く、被災者全体の57.9%を占めていた。また、業務による心理的負荷を見ると、「特別な出来事」の「極度の長時間労働」が8件、「恒常的な長時間労働」が20件と多かった。「具体的出来事」は「仕事の量・質」の類型のうち「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」が36.8%、「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」及び「2週間(12日)以上にわたって連続勤務を行った」がそれぞれ10.5%であった。「役割・地位の変化等」の類型では、「配置転換があった」が7.9%であった。一方、脳・心臓疾患の労災認定事案については、情報サービス業に従事するSE20件及びプログラマー2件を対象に詳細分析を行った。その結果、疾患名は、脳疾患(脳内出血、くも膜下出血、脳梗塞)と心疾患(心筋梗塞、心停止、解離性大動脈瑠、狭心症)の割合は同程度であった。また、時間外労働時間数では発症前1か月~3か月に平均80時間を超える時間外労働が認められた。
本研究の結果から、情報通信業におけるSEとプログラマーについては、長時間労働の改善が課題であり、それらに関連する負荷業務などの対策が必要である。また、環境変化に伴うメンタルヘルス対策の重要性も示唆された。さらに、SEとプログラマーの死亡率は、情報通信業を含めた全業種の死亡率よりも高いことから過労死等の防止にあたって対策の推進が喫緊の課題であると考えられる。
執筆者
菅 知絵美