【令和3年度】 過労死等の事案における労働時間の認定に関する事例研究
研究要旨
この研究から分かったこと
過労死等を防止するための企業の労務管理として、労働時間の形式的な把握・管理だけでは不十分である。客観的な記録を基礎とした労働時間の適正な把握が求められるのはもちろんであるが、それだけでなく、長時間労働防止、労働者の健康確保のためには、適正な業務量、業務スケジュールであるかどうかなど、業務負荷の適切な配分や、労働者が過重な負荷を抱えないための進捗管理が求められる。
目的
平成24~30 年度における労災認定事案を対象に、労働時間の認定例を検討し、事業場における労働時間の把握・管理のあり方について考察する。
方法
本年度の検討では精神障害事案を対象とし、「調査復命書」における「労働時間を認定した根拠」欄、及び、事案の内容に応じて「業務による心理的負荷の有無及びその内容」欄を検討する。
結果
残業時間の過少申告、タイムカード打刻のない残業・休日出勤、持ち帰り残業など、事業場の把握していた労働時間と請求人の主張する労働時間との間に乖離が見られる場合があり、事業場において実労働時間が正確に把握されていたかが論点となる。また、管理監督者扱いの者や専門的業務の従事者等について労働時間管理を行っていなかった例や、出勤簿への押印によって出勤有無の確認のみが行われていた例も見られる。さらには、タイムカード等をもとに労働時間が記録されていても、その時間の業務性や労働密度に対して事業場が疑義を呈する例もある。上記のケースでは、労災認定過程において、関係者聴取や客観的資料に基づいて労働時間の認定が行われている。
考察
労災認定事案は、事業場における労働時間の把握・管理に係る論点を指し示す。労働時間管理が行われていなかった事案のほか、形式的には始業・終業時刻や時間外労働の管理が行われている場合でも、適正な業務量・スケジュールでなければ、実際は、業務の必要性から労働者の自己判断等による時間外労働が発生し、長時間労働となって労働者の健康が損なわれることがある。
キーワード
長時間労働、労働時間の認定、労働時間の把握・管理
執筆者
髙見具広