【令和3年度】 過労死等による労災補償保険給付と疾病に関する評価
研究要旨
この研究から分かったこと
平成27~29 年度に支給決定された脳・心臓疾患と精神障害に関する労災への平成27 年度から4 年間の給付金額は、約219 億3 千万円であった。生存事案では、脳・心臓疾患の療養補償、精神障害の休業補償が主であった。属性の違いによる給付金額の違いは、疾患の療養に要する費用や、支給決定の数等を反映していると考えられる。
目的
業務上と認定された過労死等労災事案に係る労災補償給付の状況を明らかにし、過労死等に伴う国家費用を評価した。
方法
平成27~29 年度に支給決定となった過労死等労災事案(脳・心臓疾患764 件、精神障害1,476 件)について、平成30 年度までの4 年間に支払われた毎月の給付額を給付の種類ごとに厚生労働省から提供を受けた。過労死等防止調査研究センターの過労死等データベースを利用し、年齢、性別、業種、職種、疾患の情報を突合させ、解析を行った。
結果
4 年間の給付総額は、脳・心臓疾患120 億6,103 万6,386 円、精神障害98 億7,593 万5,116 円であった。生存事案の給付については、療養補償給付、休業補償給付、休業特別支給金が主たる区分であった。給付総額では、脳・心臓疾患は療養補償給付の割合が多く、精神障害は休業補償給付の割合が多かった。生存事案について、療養補償給付の一人当たりの給付金額の平均は、脳・心臓疾患では965 万4 千円、精神障害では115 万9 千円であった。休業補償給付の一人当たりの給付金額の平均は、脳・心臓疾患では349 万円、精神障害では493 万3 千円であった。被災者の属性により、4 年間の支給総額は異なっていた。
考察
本研究で算出された脳・心臓疾患と精神障害の給付額は平成27~29 年度に支給決定された分に限られるため厳密な比較はできないが、少なくとも同期間における労災補償保険給付全体の0.86%程度を占めていることがわかった。生存事案においては、脳・心臓疾患は療養補償、精神障害は休業補償に主に給付されていたことから、属性による給付総額の違いは、各対象疾患の療養や休業に係る経済的負担を表しており、また支給決定となった被災者の人数の違いを反映していたものと考えられる。脳・心臓疾患と精神障害に関する労災の給付額についてより正確な検討のために、長期のデータや各年度のすべての支給に関するデータを活用した解析など、引き続き労災補償保険給付と疾病に関する検討が必要である。
キーワード
労災補償保険給付、脳・心臓疾患、精神障害
執筆者