【令和3年度】 労働者の体力を簡便に測定するための指標開発

  • 令和3年度
  • 松尾 知明
  • 実験研究
  • 体力
  • ツール

研究要旨

この研究から分かったこと

労働者向けに開発したWLAQ とJST がCRF 評価法として有用であり、特にWLAQ は疫学調査への活用が期待できる。

目的

“心肺持久力(cardiorespiratory fitness:CRF)”は疾病発症との関連が強い健康指標である。CRF 評価には最大酸素摂取量(VO2max)の実測がゴールドスタンダードとされているが、実測評価は汎用性の面で課題がある。本研究では、職域での疫学調査や労働者個人の健康管理に資する新しいCRF 評価法の提案を目指している。前期までの研究では、質問票として、“労働者生活行動時間調査票(WLAQ)”を、簡易体力検査法として、“J-NIOSH ステップテスト(JST)”を開発した。本研究では、これら新しいCRF 評価法の妥当性を、心血管疾患リスクとの関係から検証するための横断研究を行った。

方法

国内企業等で勤務する30~59 歳の労働者男女850 人を対象とした。参加者は所定の実験室にて身体計測、WLAQ、JST を行った。また、参加者には1 年以内に受診した健診結果票を持参するよう依頼した。統計解析にはロジスティック回帰分析を適用し、オッズ比を算出した。その際、目的変数として健診データから求めた心血管疾患リスクの有無を、説明変数としてWLAQ、JST それぞれによる推定VO2max で分類したCRF 群(低位、中位、高位)を、調整因子として性別、年齢、飲酒の有無、喫煙の有無、運動習慣の有無を、それぞれモデルに投入した。

結果

推定VO2max 低位群を基準(1.00)とした場合、心血管疾患リスクは、WLAQ では、中位群0.28(0.18-0.43)、高位群0.09(0.05-0.16)、JST では、中位群0.43(0.29-0.64)、高位群0.19(0.12-0.29)であり、両評価法とも推定VO2max が高いほど疾病リスクが有意に軽減した。

考察

開発した質問票(WLAQ)や簡易体力検査法(JST)から求めた推定VO2max は心血管疾患リスクと有意な関係にあった。この結果は、実測VO2max でのCRF 評価と同様に、WLAQ やJST によるCRF 評価が健康指標として有用であることを示している。特にWLAQ は職域での疫学調査に活用できる。一方、労働者個人の健康管理を行う場面を考えると、質問票のみでは個人差を十分に捉えきれない。心拍数等の生体情報を評価に組み入れる必要があり、JST はその有力候補になり得るが、これまでのところ、JST によるVO2max 推定精度がWLAQ による推定精度より著しく優れていることを示すデータは得られていない。今後の課題である。

キーワード

心肺持久力、心血管疾患、体力測定

執筆者

松尾知明

PDF