【令和4年度】 過労死等による労災補償保険給付と疾病に関する評価-支給決定後1年間の1人当たりの給付金額-

  • 令和4年度
  • 高橋 正也
  • 労災事案分析

研究要旨

この研究から分かったこと

平成27 年度から29 年度に支給決定された労災保険給付の支給決定後1 年間の1 人当たりの給付金額の平均は、脳・心臓疾患の生存事案で1,289 万2,488円、死亡事案で1,139 万5,454 円、精神障害の生存事案で428 万7,992 円、死亡事案で1,213万8,758 円であった。1 人当たりの給付金額や給付総額、主たる給付の種類の内訳は、疾患、性別、年代、業種、職種によって異なっていた。

目的

業務上と認定された過労死等労災事案に係る労災補償給付の状況を明らかにし、過労死等に伴う国家費用を評価することを目的とした。

方法

平成27 年度から29 年度に支給決定となった過労死等労災事案(脳・心臓疾患730件、精神障害1,186 件)について、平成30 年度までの4 年間に支払われた毎月の給付額の情報を給付の種類ごとに厚生労働省から提供を受けた。過労死等防止調査研究センターの過労死等データベースと情報を突合させ、支給決定後1年間の被災者1 人当たりの給付金額について解析を行った。

結果

支給決定後1年間の被災者1人当たりの給付金額の平均は、脳・心臓疾患の生存事案で12,892,488 円、死亡事案で11,395,454 円、精神障害の生存事案で4,287,992 円、死亡事案で12,138,758 円であった。給付の種類ごとでは、脳・心臓疾患の生存事案では、療養補償給付、精神障害の生存事案では、障害補償年金が最も多く、次いで休業補償給付が多かった。死亡事案では、脳・心臓疾患と精神障害のいずれにおいても遺族補償一時金が最も多かった。疾患別では、生存事案では、くも膜下出血、持続性(気分)感情障害、死亡事案では、脳梗塞、解離性(転換性)障害の給付金額が最も多かった。その他、全般的に男性、教育,学習支援業、専門的・技術的職業従事者、管理的職業従事者の支給金額が多かった。

考察

脳・心臓疾患の生存事案では療養に関する給付、精神障害の生存事案では休業に関する給付が多かった。脳・心臓疾患では治療、精神障害では休業の補償に主に給付されていることが考えられる。一方で、くも膜下出血、脳内出血(脳出血)、心的外傷後ストレス障害など一部の疾患では、障害に関する給付も多く行われていた。1 年当たりに換算した給付総額は、脳・心臓疾患で29 億9,046 万2,630 円、精神障害で22 億25 万2,262 円であり、労災保険事業全体に対して、それぞれ0.41%と0.30%、合計で0.72%程度を占めていると推定された。性別、年代、業種、職種によっても1 人当たりの給付金額や給付総額の違いがあった。治療費や給付金額の算定の基になる給与額の違いを反映していると考えられ、男性や20 代から50 代で高かった。

キーワード

労災補償保険給付、脳・心臓疾患、精神障害

執筆者

高橋正也

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