【令和4年度】 労働者の体力を簡便に測定するための指標開発
研究要旨
この研究から分かったこと
過労死等防止対策としては労働者個人の内的要因改善に向けた方策も検討する必要がある。
目的
過労死やその関連疾患の防止策を具体化するためには、労働者個人が備え持つ要因(内的要因)にも注目する必要がある。心肺持久力(cardiorespiratory fitness:CRF)は疾病発症との関連が強い内的要因であり、最大酸素摂取量(VO2max)で評価される。しかし、VO2max の実測は汎用性の面で課題がある。このため、本研究班では、心肺持久力の簡便な評価法を開発することを目的とし、これまでに新しいCRF 評価法として質問票(WLAQ)と簡易体力検査法(J-NIOSH ステップテスト:JST)を開発した。今年度は①開発した評価法の改良に向けた分析と②開発した評価法による疫学調査を行い、さらに内的要因を改めて検討する観点から③脳・心臓疾患の労災認定事案の分析を行った。
方法
①被験者実験の蓄積データを用いて、2 種類(N = 173 とN = 128)の分析を行い、WLAQ やJST を用いたVO2max推定の改良を試みた。②2 つの疫学調査(N = 885 とN = 1,060)のデータを用いてCRF と心血管疾患リスクとの関係を分析した。③H22 年度からR2 年度の脳・心臓疾患の労災認定事案2,928 件の既往歴や健診情報を調べた。
結果
①WLAQ とJST を組み合わせたVO2max推定式はそれぞれ単独の推定式より精度が改善したが、得られた推定式では、実測VO2max高値者の推定値を過小評価する傾向が強かった。しかし、この弱点は別の推定法(linear extrapolation method)を限定的に組み込むことで改善した。②2 つの疫学調査いずれの場合もCRF が高いほど心血管疾患リスクが有意に低下することが示された。勤務時間とCRF を組み合わせた分析では、勤務時間の長短に関わらずCRF が高いほど心血管疾患リスクが低くなる様子が窺えた。③分析対象者のうち、心血管疾患リスク(肥満、高血圧、脂質代謝異常、高血糖の4 項目)を1 項目以上保有していたケースが86%、2 項目以上保有していたケースが60%であった。
考察
疫学調査でCRF を評価する場合はWLAQ が、また、個人の健康管理におけるCRF 評価にはWLAQ とJST を併用する評価法が有用である。事案分析ではインシデント発生には内的要因の影響も少なくないことが改めて認識された。
キーワード
心肺持久力、心血管疾患、体力測定
執筆者