【平成30年度】 建設業における労災認定事案の特徴に関する研究

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研究要旨

2018年に見直しが行われた「過労死等の防止のための対策に関する大綱」で過労死等の多発が指摘されている業種として建設業が新たに加えられた。本研究では過労死等防止調査研究センターが作成したデータベースを用いて平成22年1月から平成27年3月の建設業の脳・心臓疾患事案162件、精神障害事案149件を分析対象とし、実態と背景要因及び防止対策を検討することとした。なお、建設業の職種が多種多様に及ぶため、次の3種類に分類した:1)現場監督、技術者等、2)技能労働者等、3)管理職、事務・営業職等。

その結果、脳・心臓疾患の事案の全てが男性の事案であった。建設業全体の発症時平均年齢と死亡時平均年齢は両者とも全業種と大差は見られなかった。しかし、職種別に見ると、全業種と比べ発症時年齢は技能労働者等では60歳代の事案の割合が高く、死亡時年齢は現場監督、技術者等では20歳代、技能労働者等では60歳代の事案の割合が全業種より高かった。また、疾患別に見ると、脳疾患と心臓疾患の割合は同程度であったが、心臓疾患の割合は全業種よりも高い数値であった。さらに、認定要因が最も多かったのは長期間の過重業務であり、時間外労働時間数は発症前1か月~4か月に平均80時間を超えていた。負荷要因は労働時間のほかに拘束時間の長い勤務と精神的緊張を伴う業務が多く見られたが、技能労働者等では作業環境による負荷が他の職種と比べ多かった。

精神障害の事案については、男性の事案が約9割を占めていた。建設業全体の発症時平均年齢は全業種と比べ高く、特に50歳代の事案の割合が目立った。死亡時平均年齢も全業種より高く、60歳代の事案の割合が高かった。業務による心理的負荷を見ると、長時間労働に関わる事案の割合が高く、次いで事故や災害の体験、仕事の失敗や過重な責任の順で認められた。職種別に見ると、全業種と比べ現場監督、技術者等では仕事の失敗や過重な責任が、技能労働者等は事故や災害の体験が事案として多かった。また、業務による心理的負荷から発症した疾患を見ると、うつ病エピソードが最も多く、次いで適応障害、心的外傷後ストレス障害の順に続いた。特に、現場監督、技術者等ではうつ病エピソード、技能労働者等では心的外傷後ストレス障害の事案の割合が全業種と比べ高かった。

本研究の結果、建設業については、現在提案されている長時間労働対策とともに、労働災害、発注者や元請け側からの無理な業務依頼、及び対人関係への配慮に対する対策強化が重要と考えられる。また、現場監督、技術者等、技能労働者等や管理職、事務・営業職等の職種によって異なる業務による過重労働の負荷が挙げられるため、建設業内でも職種別に考慮した対策が必要と考えられる。

執筆者

菅 知絵美

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