【平成30年度】 労災保険特別加入者における労災認定事案の特徴に関する研究

  • 平成30年度
  • 吉川 徹
  • 労災事案分析

研究要旨

自営業者や法人の役員等の脳・心臓疾患及び精神障害・自殺等(以下「過労死等」という。)の実態が不明である。本研究では過労死等データベース(以下「過労死DB」という。)を活用し、自営業者や法人の役員等が含まれる労災保険の特別加入者の過労死等の分析を行った。

過労死DBから平成22(2010)年4月~平成29(2017)年3月の7年間の特別加入者を抽出し、年齢、性別、決定時疾患名、業種、職種、特別加入種類、特別加入者100万人当たりの発生件数及び事案の特徴を分析し、防止策を検討した。

特別加入事案の過労死等は、脳・心臓疾患2,027件のうち64件(3.2%)、精神障害3,011件のうち20件(0.7%)で、事案総数の1.7%(84/5,038)を占めた。特別加入種類別では中小事業主等(第一種)51件(60.7%)、一人親方等(第二種)27件(32.1%)、特定作業従事者(第二種)6件(7.1%)であった。特別加入者100万人当たりの発生率は労災認定事案に比して高くなかった。事案の約8割は労働者が9人以下の小規模事業場で、出退勤の管理がない、就業規則がない、健康診断受診率が低い等の特徴があった。業種は建設業が約半数で、卸売業・小売業、その他のサービス業、宿泊・飲食サービス業、農業・林業・漁業の順に多かった。脳・心臓疾患は全例が男性で高齢者が多かった。認定事由は「長期間の過重労働」が多く、特に発症前1か月前の時間外労働が多い事案が目立った。精神障害・自殺では、事故や災害の体験、仕事の失敗と過重な責任、失職等が複合的に関係していた。少数だが、農業労働従事者の繁忙期連日作業による過重労働や農業機械による災害等、漁業・船舶所有者の事業では拘束時間の長い業務、深夜・早朝の作業等があった。自営業者、役員の過重労働の背景には、①小売、宿泊・飲食店等や農業・漁業のように、連日業務、顧客相手、繁忙期有、人手不足等の業務特性により労働時間の裁量性が制限される働き方と、②建設業に代表される個人請負就労者としての一人親方、専門性を活かした個人事業主や小企業の役員がサプライチェーンに組み込まれ、雇用類似の働き方によって労働時間の裁量性が制限され過重労働となる働き方があった。

自営業者、役員等の過労死等の防止のためには、業種や事業場規模の特性に合わせた安全健康支援が必要であり、①サプライチェーンにおける包括的安全衛生管理の促進、②行政、商工会議所や業種別の事業場組合、地域保健サービス、産業保健サービス提供機関等による多層支援、③事業場の経営支援と人員不足対策、④健康増進と健康管理や職業上の健康障害リスクへの対応を含めた教育・研修機会の提供等を行う必要がある。自営業者、法人の役員等は労働基準法の労働者には該当しないが、今後増加が見込まれる雇用類似の働き方をしている就業者の保護の視点から、過労死等防止の取組が期待される。

執筆者

吉川 徹 

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