研究報告書

【令和4年度】 対策実装研究アクション3:中小事業場への産業保健支援・サービス手法の検討

【令和4年度】 対策実装研究アクション3:中小事業場への産業保健支援・サービス手法の検討
目次

研究要旨

この研究から分かったこと

中小事業場では労務・安全衛生に関する十分な知識の理解と実践をすることには課題がある。現場がとりくみやすい体制整備や支援が必要であり、それを浸透させる方策は、企業目標を中心にした工夫が必要であることが分かった。

目的

中小事業場での安全衛生活動向上・健康管理支援のための新たな方法を模索し、実装するための方法論や手法等を検討することを目的とする。

方法

(1)建設業界における事業場安全衛生体制整備に関する自律的管理のためのセルフチェックシートの開発を行い、その展開方法について検討した。(2)さらに運輸業での健康課題を持つドライバーの健康管理支援方法についても検討した。(3)(1)(2)の開発を通じて中小事業場での安全衛生活動向上・健康管理支援のための課題を検討した。

結果

(1)開発したチェックシートは、Step1/2/3 と取り組みの優先順位が示され、担当者が自社の衛生・健康管理体制が法的要求事項に対応できているか確認でき、できていない項目についてはどう改善するかの提案が分かり、50 人以上/10~49 人/10 人未満と事業場規模ごとの対応が分かるものとした。さらに汎用性の高いツールとなるよう一般版も作成した。試用での123 件の分析では、事業場規模が小さくなるほど健康診断事後措置・長時間労働対策・ハラスメント対策など必要な対策が実施されていない状況が伺えた。チェックシートの展開を検討したが、具体的な進展には至らなかった。(2)運輸業におけるドライバーの新たな健康確保策の1 案を作成した。(3) (1)(2)の開発を通じて、中小事業場での安全衛生活動向上・健康管理支援のためには、①対象企業の安全衛生活動の関心と準備性(2-6-2 の法則)を踏まえたアプローチをとること、②企業の経営目標の中に安全衛生事項をビルトインできる方策を検討すること等が重要と整理された。

考察

本年度は過労死等防止対策に関する企業行動変容ステージを勘案し、関心期と準備期にある企業の行動変容を促すツールとして開発し、現場での利用の感触を得た。健康確保のための法的事項の理解は十分とは言いがたく、事業場規模の小さいところほど支援が必要であり、健診事後対応への課題が確認された。中小事業場では経営層や現場責任者での取り組みやすさが重要と考えられた。セルフチェックにて法的事項の趣旨を理解し、自社課題を知ることは適切な衛生管理への第一歩である。業種によらない衛生管理の基本をチェックできるツールとして展開することで中小事業場の産業保健レベル向上に寄与することができる。また、運輸業のドライバーの健康確保は個人の健康問題だけではなく企業経営及び社会の課題でもあることが明らかである。安全運行とドライバーの安全健康を守り、経済的にも利にかなった物流を支える社会体制整備をドライバー視点から捉え対策を講じていくことも必要であろう。

キーワード

中小事業場、産業保健、実装研究

執筆者

吉川 徹

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