【令和元年度】 支給決定された精神障害事案のうち自殺完遂事案に着目した解析
研究要旨
業務上の精神障害として労災認定された事案の中でも、特に自殺を完遂してしまった事案(以下「自殺事案」という。)に着目しその実態及び背景要因を検討した。対象は平成27年度と28年度に認定された167件全件とし、性別や年齢、業種と職種、出来事など基礎的な項目の解析に加えて、自殺に関する諸項目の観点から自殺事案の実態を検討した。また自殺事案においては長時間労働が多く見受けられるため、どのような背景要因によって長時間労働が生まれてしまったのか、また長時間労働は精神障害の発症前にどのような推移をたどっていたのかについて調査した。
結果、自殺事案の大半を男性の30~40代が占め、専門職、管理職、事務職などの職種で自殺事案が多かった。特に、雇用者100万人当たりの自殺者数を算出すると、管理職における自殺発生率が高いことが示された。被災者が経験した具体的出来事の中では、長時間労働に関連する出来事に該当する事案が多かったが、上司とのトラブルやいじめなどの対人関係を主な要因とする事案も一定数見受けられた。長時間労働の背景要因としては、慢性的な人手不足だけでなく、未経験の業務や新規事業を任されることにより、労働時間が増加してしまった事案が多く見受けられた。これは、時間外労働の推移(発症前6か月間)が一定の事案と、増加傾向にある事案に分かれたことからも示された。
本研究の結果から、自殺事案を減らすためには様々な長時間労働の背景要因に対応する必要性だけでなく、長時間労働以外の要因にも着目した幅広い自殺予防対策の重要性が示された。