【令和2年度】 外食産業における労災認定事案の特徴と防止策の検討

  • 令和2年度
  • 吉川 徹
  • 労災事案分析
  • 重点業種

研究要旨

目的

本研究では過労死等データベースを用いて外食産業における過労死等の実態と背景要因を検討した。

方法

 過去5年のデータベース(H22-26年度、脳心113件、精神139件、計252件)に直近の4年間(H27-30年度、脳心102件、精神122件、計224件)の事案を加えたデータベースを作成した。まず、宿泊・飲食サービス業を対象に、発症時年齢、事業場規模、業種、職種、疾患、労災認定要因、及び時間外労働時間数別に記述統計を作成した。続いて9年間の経年比較を行った。外食産業として宿泊・飲食サービス業の業種中分類の「飲食業」に注目し、脳・心臓疾患と精神障害、店長と調理人、店員別の解析を行った。さらに、外食産業における自殺事案の心理的負荷要因に注目し、自殺事案における精神疾患の発症および自殺に至る経過を整理し、その防止策を検討した。

結果

宿泊・飲食サービス業における過労死等事案は、それぞれ過労死等の全事案のうち脳・心臓疾患の8.5%、精神障害の6.6%、全事案の7.3%を占めた。経年変化として脳・心臓疾患はやや増加傾向、精神疾患はややは減少傾向であった。経年的な変化は年毎の変動が大きかった。また、出退勤の管理状況は、全業種に比べてタイムカードによる管理が多かったが、就業規則や賃金規程の未作成、健康診断受診率は低かった。9年間の経年比較では労働時間管理方法の変化を確認できなかった。また、平成26年11月の過労死等防止対策推進法の施行前後の精神障害発症に係わる負荷要因の前後比較では、「仕事内容・仕事量の変化があった」の増加が著しく、「2週間以上にわたる連続勤務」、「嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」も増加傾向にあった。外食産業(飲食業)に注目すると、精神障害の認定事例は脳・心臓疾患に比べやや多く、年齢層別では、脳・心臓疾患は中高年、精神障害は20歳代、30歳代が多かった。業種の小分類では、食堂・レストラン、専門料理店、酒場・ビヤホールの順に多かった。職種では、調理人(39.3%)、店長(35.6%)、店員(17.3%)の順に多かった。飲食業全体で8件(2.5%)の10歳代の事例が確認されたが、これらはすべて精神障害で、4件は調理人、4件は店員であった。また、22件の未遂を含む自殺事案分析から、長時間労働を背景にして、若年、責任・ノルマ、いじめ・暴力・ハラスメント、ミスや指導・叱責、転職や配置転換による新規業務の負担など、複数の心理的負荷が重なって精神障害を発症し自殺に至った状況が確認された。

考察

外食産業において、(1)実施可能な労働時間管理と時間外労働の削減のための労務管理上の各手続きの充実、業務計画と業務の見直しを基本にして、(2)過重な負担がかかりやすい若年者への対応が必要である。また、健康障害のリスクを高める場面としての(3)限られた狭い空間や密な人間関係、上下の関係のなかで発生する、いじめ・嫌がらせ・暴力・ハラスメント、(4)配置転換や新規店舗支援など仕事の急激な変化、(5)達成困難なノルマと個人を追い込むような叱責などに対して、店長、調理人、店員などそれぞれの役割に合わせて、事業主及び、外食産業を展開する事業場での過労死等防止策を進める必要がある。

執筆者

吉川 徹 

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