【令和2年度】 精神障害(自殺)の労災認定事案の解析

  • 令和2年度
  • 西村 悠貴
  • 事案分析:精神障害

研究要旨

業務による心理的負荷により精神障害を発症したと認定された事案のうち自殺既遂事案を対象に、基礎的な集計を通した実態把握と共に、精神科受診歴と関連する項目を明らかにすることを目的に、調査復命書を用いた解析を行った。

平成24年度から平成29年度までの間に、平成23年策定の認定基準を用いて認定された自殺事案510件のうち、労災によって負傷し病院で療養中であった13件を除いた497件を対象とした。

昨年度に引き続いて基礎的項目の集計及び時間外労働のパターン解析を行うとともに、精神科等の受診状況に着目した解析を実施した。基礎集計結果からは、30代と40代男性の事案が多く、その多くが管理職等のホワイトカラー系の職種に従事していたことが改めて示された。業種に関しては、建設業の割合が精神障害全体と比較して高い傾向にあり、雇用者100万対事案数からも建設業における自殺事案の発生率が高いことが示唆された。自殺事案の既婚率は、日本全体の傾向と比較して高めであった。労災の遺族補償や葬祭料給付が、残された家族の生活維持に活用されている実態を反映したと考えられる。精神科の受診歴と関連する項目に関する解析では、既婚者の受診歴が高いこと、長時間労働で受診率が下がること等が示された。一方で、性別、業種や職種による違いは見受けられなかった。

本調査のデータでは精神科受診が自殺防止につながるかについては検証できないものの、受診率を下げうる要因が明らかになったことで今後の自殺予防対策立案の一助となることが期待される。本調査の結果から自殺事案を減らすには、職場環境の改善によって精神障害の発症自体を防ぐとともに、不幸にも体調を崩す事態に至ってしまった場合でも会社や家族が不調に気づき適切な支援先につなげるなど、総合的に労働者の健康を支える取り組みが重要であることが示された。

執筆者

西村 悠貴

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