【令和5年度】 過労死関連疾患の予防対策に向けた体力評価研究
研究要旨
この研究から分かったこと
個々の労働者がCRF を自己評価する方法としてJST2 は有用である。過労死関連疾患の予防対策では、労働時間等の労働環境を改善する対策を進めると共に、労働者個人の健康管理に資する対策も必要である。
目的
過労死関連疾患の予防対策に向け、本研究班では、労働者自身が備え持つ特性(内的要因)の一つとして“心肺持久力(cardiorespiratory fitness:CRF)”に着目した研究に取り組んでおり、これまでの研究で、労働者向けのCRF 評価法として“労働者生活行動時間調査票(WLAQ)”や、“J-NIOSH ステップテスト(JST)”を開発した。本稿では、JST の実用性向上を目的に行った被験者実験と、WLAQ やJST を用いた疫学調査(追跡調査)の各分析結果を報告する。
方法
被験者実験の分析対象者は30~60 歳の労働者男女82 人である。ステップ台を必要とせず、対象者自身がスマートウォッチで心拍を計測する方法として開発したJST2 によるCRF 推定値の信頼性(ICC 分析)と妥当性(Bland-Altman 分析)を検証した。疫学調査の分析対象者はベースライン調査と1 年後の追跡調査に参加し、かつベースライン時に心血管疾患リスクを有さない30~60 歳の労働者男女377 人である。説明変数にベースライン時のCRF 値(低群と高群)と1 日あたりの勤務時間(長時間群と短時間群)を、目的変数に追跡調査時の健診結果から求めた心血管疾患リスクの有無をそれぞれ投入したロジスティック回帰分析によりオッズ比を算出した。
結果
JST2 によるCRF 推定の信頼性評価値(ICC)は0.96(0.94-0.97)であり、良好であった。ランニングマシンで測定したCRF 実測値を妥当基準としたBland-Altman 分析では、JST2 による推定値の固定誤差はなかったが、有意な比例誤差が認められた。推定値と実測値の相関係数(r)は0.72 で有意であった。疫学調査では、“CRF「高」かつ勤務時間「短」”群を基準(1.0)とした場合、“CRF「低」かつ勤務時間「長」”群のオッズ比は5.36(1.44-20.0)で有意であった。
考察
被験者実験では、JST2 によるCRF 推定の信頼性と妥当性の評価値が良好であり、個々の労働者が、好きな時に、好きな場所で、一人でも、安全にCRF 評価を行う方法としてJST2 が有用であることが示された。疫学調査(追跡調査)では、長時間勤務が心血管疾患発症に及ぼす悪影響はCRF が低い者ほど顕著であることが示された。
キーワード
体力、健康管理、予防対策
執筆者