【令和5年度】 対策実装研究アクション3:中小事業場への産業保健支援・サービス手法の検討

  • 令和5年度
  • 吉川 徹
  • 重点業種
  • 対策実装研究
  • ツール

研究要旨

この研究から分かったこと

中小事業場では労務・安全衛生に関する十分な知識の理解と実践をすることには課題がある。現場の優先事項を重視した取組みやすい体制整備や支援が必要であり、それを浸透させる方策は、現場目線での工夫が必要であることが分かった。 

目的

中小事業場における過労死等防止を含む安全衛生活動向上のための効果的で新しい健康管理支援方法及びそれらを実装するための方法論や技術手法等を検討することを目的とする。

方法

(1)令和4 年度までに開発した事業場安全衛生体制整備に関する自律的管理のためのセルフチェックシート(SCS)の改善とWeb化システムの構築を行い、実地利用して実装における課題を検討する。
(2)実装研究班で対象としている運輸・郵便業、建設業に関連する産業保健専門職間の情報交流の場を構築し、同業種における効果的な健康管理のアプローチ方法を検討する。
(3)運輸業において健康課題を持つドライバーの健康管理支援方法について検討する。
(4)中小事業場における複数事業場支援ができる安全衛生活動支援方法を検討する。また、令和3 年から開始した中小事業場への産業保健支援・サービス手法の検討結果を総括する。

結果

 (1)運輸版SCS は、2024 年から開始されるトラック運転手の改善基準告示に関連した重要事項を追加し、また一般業種でも手軽に活用できる汎用版を作成した。これらをMicrosoft FormsⓇを用いて回答・集計できるWeb化システムを構築し、複数の事業場で試用した。
(2)日本産業衛生学会の学術集会の場で「2024 年問題」に関連した自由集会を企画し、メーリングリストを中心とした産業保健専門職ネットワークを構築し、運輸業・建設業における健康管理支援方法を検討した。
(3)ハイリスクドライバーの医療的支援に必要な方策について課題を整理した。
(4)団体経由産業保健活動推進助成金を活用した小規模事業場向け産業保健サービス提供について提案した。

3 年間の研究の結果、中小事業場における安全衛生活動向上・健康管理支援のためには、①対象企業の安全衛生活動の関心と準備性(2-6-2 の法則)を踏まえたアプローチをとること、②企業の経営目標の中に安全衛生事項をビルトインできる方策を検討すること、③中小企業支援のための集団的な産業保健サービスに対応できる専門職集団への支援等が重要と整理された。 

考察

中小事業場では経営層や現場責任者での取組みやすさが重要と考え、セルフチェックにて法的事項の趣旨を理解し、自社課題を知ることにより、過労死等防止に必要な適切な衛生管理に取組めるためのツールとして開発した。どの業界でも簡便に使用できるウェブ利用システムやその結果を活用した自律的安全衛生活動の推進体制を整えることで、個別・集団で活用できるものとし、データ集積により対策の道筋を整理していくことが可能である。そのためには現地の安全衛生ニーズをリスクアセスメントして優先事項を容易に支援できる専門職集団が必要である。また、産業保健専門職に依存しすぎない健康管理手法の開発や、個人が自分の健康確保ができる社会環境の整備も必要である。 

キーワード

中小事業場、産業保健サービス、運輸業・建設業 

執筆者

吉川 徹

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