【平成29年度】 外食産業における労災認定事案の特徴に関する研究
研究要旨
「過労死等防止のための対策に関する大綱」で過労死等の多発が指摘されている5つの業種・職種(自動車運転従事者、教職員、IT産業、外食産業、医療等)のうち、外食産業において調理人と店長の役職に就く対象者に注目し、過労死等調査研究センターが作成したデータベースを用いて実態と背景要因を検討した。分析対象は、脳・心臓疾患事案では、調理人が35件、店長が30件、精神障害事案では、調理人が20件、店長が16件であった。
分析の結果、発症時年齢は、脳・心臓疾患では調理人が50歳代、店長が40歳代で多かったのに対し、精神障害では調理人が29歳以下、店長が30歳代で多く、精神障害の方が若年齢層の事案が多かった。また、脳・心臓疾患と精神障害の両事案ともに50人未満の小規模な事業場が目立った。決定時の疾患については、脳・心臓疾患では、調理人は脳疾患が多く、特に脳内出血は約4割を占めた。一方、店長は脳疾患と心臓疾患の割合が同程度であった。精神障害では、調理人及び店長ともに、うつ病エピソードと適応障害が多かった。労災認定要因を見ると、調理人及び店長ともに長時間の過重業務が全ての事案で認められ、発症前1か月から6か月で時間外労働時間が100時間を超えていた。労働時間以外では、調理人は拘束時間の長い業務、交代勤務・深夜勤務、作業環境の問題、店長は拘束時間の長い勤務や交代勤務・深夜勤務が多く見られた。精神障害では、「特別な出来事」のうち「極度の長時間労働」、「恒常的な長時間労働」、「具体的出来事」のうち「仕事の量・質」といった長時間労働に該当する出来事が多かった。また、精神障害では、調理人は、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」、「上司とのトラブルがあった」などの対人関係の問題が多かったのに対し、店長は、「配置転換があった」、「転勤をした」など「役割・地位の変化等」によるものが多く、職種で異なる点が見られた。
今後は、調理人及び店長ともに適切な労働時間管理、休日の確保などの労働時間対策とともに、健康診断の実施等健康管理対策の強化や負荷業務などの削減を図る必要があると考えられる。さらに、調理人は対人関係の問題、店長は役割・地位の変化等による問題が多く、職種に応じたメンタルヘルス対策の検討が必要と考えられる。
執筆者
菅 知絵美