【令和4年度】 精神障害の労災認定事案におけるいじめ・暴力・ハラスメント―心理的負荷の強度についての検討―
研究要旨
この研究から分かったこと
精神障害の労災認定事案の85.6%は、心理的負荷「強」の出来事を伴っている。しかし、全体の半数以上が複数項目認定事案であることから、労災防止のためには、「中」程度の心理的負荷の出来事も生じさせないことが重要である。その為、事後に適切に対処するだけでなく、出来事の未然防止の取り組みが必要である。
目的
本研究の目的は、精神障害に関する労災認定事案について、平成23 年度から平成29年度のデータに平成30 年度と令和元年度のデータを追加して複数項目認定事案を分類し、心理的負荷の強度を踏まえた検証を行うことである。
方法
平成23 年度から令和元年度に支給決定された精神障害事案3,881 件を分析対象とした。複数項目認定事案の出来事の組み合わせのパターンを潜在クラス分析によって分類した。心理的負荷の強度が、認定事案の分類や各出来事においてどのように分布しているのかを確認するために頻度と割合を集計した。分析結果に沿って典型事例を提示した。
結果
複数項目認定事案の分類は、最近のデータを加えても、昨年度までの結果と同様の5分類が妥当と示された。複数項目認定事案のうち73.4%(1,549 件)で、心理的負荷の評価が「強」の出来事が1 つ以上認められた。心理的負荷の評価が「中」以下の出来事の組み合わせのみで認められた事案は560 件(全対象事案の14.4%)であった。人間関係の問題関連の事案において、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」や「セクシュアルハラスメントを受けた」は、67.6%(323 件)で認められていた。残りの155 件は、主に「上司とのトラブルがあった」、「配置転換があった」、「退職を強要された」等の出来事の組み合わせにより認められていた。
考察
心理的負荷の強度が「中」以下の出来事の組み合わせのみで認められた事案は少なかったが、複数項目認定事案が全体の54.3%(2,109 件)を占めることを考えると、心理的負荷が「強」の出来事を生じさせないだけでなく、「中」以下の出来事もできる限り生じさせないことが重要であると考えられる。その為、いじめ・暴力・ハラスメントに関する労災を予防するためには、①暴行を起こさせない、②嫌がらせ、暴力的発言、セクシュアルハラスメントに対して迅速かつ適切に対応し、継続させない、③嫌がらせ、暴力的発言、セクシュアルハラスメントを起こさせない、④いじめ・暴力・ハラスメント以外の出来事についても「中」程度の心理的負荷の出来事も生じさせないような対策を講じることが重要だろう。
キーワード
いじめ・暴力・ハラスメント、過労自殺、人間関係の問題
執筆者